ただいま
海沿いの町を出て、帰りはまた十日。
いつまでも名残り惜しがる町長と陽気な街の人々に見送られ、早々に旅立った二人は途中の町で休みながら帰路を進んだ。
キアラとの旅は楽しく、いっそこうやって世界を巡るのも良いかもしれないなんてことすら思えるほどだ。
ラメールほどではないが、賑わう街道沿いの町を抜けてさらに東へ進むと、申し訳程度に舗装された道がある。
そこを少し歩けば、住み慣れた家に到着する。
騒がれることに飽き飽きしたレオが静かな環境を探してこの場所に決めたらしい。
自然に囲まれた立地は好ましいけれど、そもそもクロウの認識では自分の家はほぼ森である。
ラメールで過ごす日々は毎年の楽しみでもあるが、自然豊かな地に慣れた身としてはやはり生まれ育ったこの土地が一番だ。
日除けのフードを少し煩わしく感じながらも、キアラと手を繋いでのんびり歩く時間は悪くない。
やや傾斜の野道を進んでいくと、家の前でレオが森に住む鳥たちに餌をやっている様子が目に入った。
気づいた父はクロウたちの姿を発見すると嬉しそうに手を振る。
「おかえり! 僕の可愛いクロウとキアラ!」
目を見張るスピードで駆け寄ったレオは暑さも気にせず、二人同時に抱きしめた。
子煩悩な父は昔から変わらない。
クロウは鬱陶しそうに、キアラは嬉しそうに、喜ぶレオの好きにさせることにした。
しばらくすると母のサアレも家から出てきて、二人を迎える。
流れるような赤く長い髪に、鮮やかな緑の瞳。
真っ赤な口紅が印象的なサアレは、スレンダーな長身美女だ。
レオと共に戦場を駆け抜けた時には「真紅の魔女」と二つ名で恐れられた剣士だったという。
ちなみに本人は当時から二つ名が恥ずかしいらしく、うっかりレオが人前で口を滑らそうものなら本気のエルボーをぶちかまされたと聞いている。
「おかえり、お疲れクロウ。キアラもよく頑張ったな」
レオから解放されたクロウとキアラの頭を順番に撫で、今度はサアレがキアラを抱きしめる。
「怪我はしていないか? 何かつらいことはないか? クロウにいじめられなかったか? 私はもう心配で心配で……」
「大丈夫だよ、ありがとう母さん。何ともないよ」
ぎゅうと抱きしめて、よしよしとキアラの頭を撫でるサアレをクロウは呆れ顔で見下ろしている。
見慣れた光景とはいえ、もう十七のキアラにいつまで過保護を貫く気なんだろう。
いつものことながら唖然としてしまう。
「そろそろ、その過保護やめたら?」
「いいだろう。キアラはお前と違って、小さくて素直で可愛いからな」
じとりと眺めるサアレの目はクロウとよく似た切れ長の目だ。
クロウは一見レオに似ているが、よく見るとパーツはサアレ似で、長身なところも母から譲り受けたと思われる。
なにより太陽のように明るい父とは違い、少し近寄り難い雰囲気が母とよく似ているそうだ。
いつの間にか自分の背丈を追い越していた息子を見上げては、
「昔は可愛いかったのに……」
と漏らすサアレは、よく笑いよく泣く小柄な養女がとても可愛いらしく、いつまでも過保護でいる。
「大丈夫! クロウも可愛いよ!」
ちなみにすかさずフォローを入れるレオも基本的に過保護である。




