好かれる理由がわからない
それから、キアラがクロウの顔を見なくなった。
あまり人と目を合わさなくなり、つくろうような笑顔になった。
そんなキアラを町人たちも気にしているが、いくら尋ねても体調があまり良くないのかも、とはぐらかすだけ。
無理に聞き出すこともはばかられて、皆しばらくは見守ることにしているようだ。
日常のコミュニケーションは何とかやっているが、クロウのことはあからさまに避けるようになっている。
態度を改めようにも肝心のキアラに避けられているので、以前よりもっと距離を感じる。
また何かしでかしてしまったのかと考えても心当たりがありすぎて、逆にこれといった原因がわからない。
そもそも、そっけないクロウにめげずに懐いてくれたキアラがいたからこそ、二人は今まで一緒にいられたわけで。いつこの状態になってもおかしくはなかったのだ。
「お前、その木好きだな……。今度は何だ? めっちゃ怖いんですけど」
先日の木の下。これまた同時刻に膝を抱えて、どんよりした雰囲気を醸し出すクロウ。
目撃したケイは可哀想なものを見るような目線を向けている。
「キアラは、僕の何が好きなんだろう」
「ん? んんー?」
「正直、好かれるようなことをした記憶がない。むしろ今の状態が正しいんじゃないか?」
「それは言えてる。自業自得ってやつだ」
「やっぱり……」
馬鹿みたいに落ち込んでいるクロウを見て、ケイは心底呆れているようだ。
「ほんと勝手な奴だよな。今まで好きでいてくれることが当たり前だとでも思ってたんだろ。おおいに反省しろ」
「う……」
自分のどこがいいのか。今まで何度も疑問に思ってきたことだが、そう言われると言い返せない。
我ながら最低だとはわかっていても、思わず頭を抱えてしまう。
情けない姿を目の当たりにしているケイは隣に腰を下ろし、じとりとした視線を向けて来る。
ケイは世話焼きな性分だ。
「ばーか」
と言いながらも慰めるよう、ポンとクロウの肩に手を置いた。
「お前さあ。宿の部屋、隣だろ? こんな所でうだうだしてないで、さっさと本人と話してこいよ」
「避けられるし、はぐらかされる……」
「どこまでも情けない兄貴だな、おい……。よし、なにしても情けないんだからもう開き直って行け。心配するな、情けなくてもお前は勇者様だ」
「お前と話してると勇者って何なんだろうな……、て最近思うよ……」
鬱陶しいからさっさと行け! と足蹴にされ、この町の勇者様は肩を落としながら、重い足を引きずるように宿へと帰ることにした。
キアラの部屋の前に立ち、深呼吸したクロウは扉を叩く。
しかし返事はなく、廊下はしんと静まっている。
出掛けているのかもしれない。そう思いながらも声をかけてもう一度ノックすると、のろのろと扉が開く。
顔を出したキアラの表情は暗い。少しでも触れたら泣き出してしまいそうだった。
いつも天真爛漫な彼女がこれほど長く沈んだ顔をしているなんて初めての事態である。
「兄さん……。どうしたの?」
「大丈夫か? 話が……」
「大丈夫だよ、なんともないから。ごめんね、もうちょっとだけ一人でいさせて」
「そんなはずないだろ」
半分しか開いていなかった扉を強引に開けたクロウは素早く中に入り、ドアを後ろ手で閉める。そうして、突然のことに驚くキアラを壁と自分の間に閉じ込めた。
見上げるキアラの目は不安に揺れて、だけどすぐに逸らされる。
「なんで僕を避けるんだ?」
「避けてたのは兄さんだよ」
「それは……、否定しないけど……」
格好付けたいが、否定できないところがつらい。
「ねえ、離して。なんで急に私に構うの?」
「キアラの様子が変だから。僕を嫌いになるのは、その……当然だとは思うけど……。できれば避けないでほしい」
「勝手だよ……」
「わかってる」




