クロウと聖剣
どうぞ、とクロウが聖剣を差し出すとケイは嬉しそうに、まずはそちらから手に取る。
「これが、あのレオさんが使っていた聖剣……。お? おお? くっ……!」
目を輝かせた彼は緊張気味にそっと聖剣の鞘に手をかけたが、剣は一向に抜けない。
徐々に力が増し、しまいには渾身の力で引っ張るケイを見て、クロウはあまり変わらない表情のまま小さく噴き出した。
「無理だよ。僕にも抜けないんだ。どういう仕組みか詳しくは知らないけど、聖剣が認めた人間にしか抜けないんだってさ」
驚いたケイが目を大きく開く。そうして剣から、うつむくクロウに視線を移した。
まさか、そんな仕掛けがあるなんて思いもしなかっただろうし、出会った当時からいつも帯剣しているクロウが抜けないなんて、あまりにも予想外のことだろう。
「そいつは父の家系に伝わる剣で、後継者はみんなその剣を使うことが出来たらしい」
なのにクロウには扱えない。
原因は父にも母にもわからなかった。
「ケイも知ってると思うけど僕の母は魔族で、もしかしたらその血のせいかもしれない……。なんて、そうやって理由を作ってさ、馬鹿だよな。ただ僕がその剣に相応しくないだけだ。でも、魔族……、キアラを受け入れてしまったら、一生使えない気がして」
呟きは自重気味になってしまった。ケイはなんとも言えない、そんな表情をしている。
いっそいつもみたいに笑い飛ばしてほしいけど、この状況では無理なことだろう。
「それは、うん……断言はできないけど……。でもさレオさんが使えるなら、関係ないんじゃないか? ……多分」
それはクロウもうすうす思うことだ。
父であるレオと、魔族の母。魔族を受け入れようが、何も変わらないのかもしれない。
ただ、レオは生粋の人間だ。魔族の血を引くクロウとしては、出来るだけ自分からその要素をなくしてしまいたかった。
「うん、ただの願掛けみたいなものかもしれない。……正直に言うと、キアラのことは可愛いと思う。でも物心ついた時からずっとこの剣を使うことが目標で、もう意地になってる。使えもしないのに身につけて……、情けないよな」
「情けなくはねーよ。毎年短い間だけど、俺はお前をずっと見てきたからな」
間を置かず返ってきた返事に、クロウは顔を上げる。
そこには見たことないほど真剣な面持ちをしたケイがいて、真っ直ぐにクロウを見つめていた。
「でもさ、なんでお前そんなにこの剣に拘ってんの?」
「それは……、父みたいな剣士に……」
「なってるだろ」
真面目な顔で肯定され、つい目から鱗といった顔で呆けてしまった。
自分は剣士としてレオに追いつけているのだろうか?
クロウに実感はない。なんせ父は国から認められる勇者なのだ。
「ちゃんと立派な剣士様だろ。規模は小さいかもしれねーけど、この町ではレオさんに負けない立派な勇者様じゃん。どうせ他の町でも似たような扱いなんだろ」
「いや、でも……」
「確かに使ってみたい気持ちはわかる。でもこっちの剣でいいんじゃね? 聖剣だかなんだか知らねーけど、そんなに使いたいならこっちを聖剣にすれば?」
「聖剣は一応、代々伝わる伝説級の剣なんだけど……」
愛用の刀を示すケイの顔に冗談や茶化す様子は見当たらない。
だけど先祖代々伝わる希少な剣に身も蓋もないような言い方をされて、頬が少し引き攣ってしまった。
「どんな剣を使おうが、お前はお前だよ。逆に言えば明日から聖剣でその辺の魔物を倒しても、お前への評価はなにひとつ変わらんから」
それは少し虚しい、かもしれない。
聖剣にこだわるのはあくまで自分の為だ。
だけどそこまで言われると、頑なに固執していたこの数年がものすごく情けないものに感じてしまった。




