クロウの友人
「いつも無だよ! めっちゃレアだから!」
「心外だな」
「おーい、クロウ!」
また無に戻ったクロウにキアラが顔を赤くして抗議していると、少し離れた場所から快活な声が掛かる。
その方向を見れば、通りからクロウと同じくらいの年齢の男が足早にやって来た。
「ああ、久しぶり」
顔見知りらしく、クロウは飲んでいる水のグラスを持ったまま応対している。
「お疲れさん、今年もありがとうな」
にこやかに話す彼は友人だろうか。
つい眺めていると、気づいた青年と視線が合う。
キアラに向けられた表情は明るく、彼の人懐こさがうかがえた。
「お、この子が可愛い妹ちゃん? よろしくね。俺ケイっていうんだ」
「あ、キアラです。よろしく……えっと、可愛い妹ちゃんって……どういうこと?」
ここに来たのは初めてだし、まさかクロウがそんなことを言うようには思えない。
不思議に思うキアラが見上げると、飲み込んだ水がおかしなところに入ったらしく、クロウは盛大に咽せていた。
「クロウから君のこと聞いてるよ。討伐ありがとう。それにしても……」
じっと観察されるような視線が居心地悪く、キアラは隣に座るクロウに隠れるように寄り添う。その様子を見たケイは警戒心を解すかのように、にこりと笑って少し距離を取った。
「あ、ごめん。うん、たしかにめっちゃ可愛いな。これはシスコンになるはずだよなあ。クロウ」
「誰がシスコン……」
口元を雑に拭ったクロウが否定するような声を出す。
この兄がシスコンだなんてありえない。いったいこの人は何を根拠にそんなことをいうのだろう。
心底不思議に思うキアラが見上げても、クロウは冷めた目で友人を見ている。
だけど気にしないケイは隣の椅子を引き寄せ、当たり前のように腰掛けた。
「またまたぁ、照れるなって。俺は祭りの雑用があるから、昼はゆっくりできなくてさ。後で飲もうぜ!」
クロウの機嫌などおかまいなし。座ったまま肩を組み、自分のペースで話し続けるケイにキアラは目を瞬かせた。
短めの前髪と悪戯っぽい瞳が印象的な青年で、表情がよく変わる。
(兄さんとは正反対の人なのに、すごく仲がよさそう……)
そんなことを思いながら二人の様子を観察していると、ケイはキアラに向かって人好きのする笑顔を向けた。
「キアラちゃんともいろいろ話したいな。クロウの素行とか」
「ケイ!」
「素行?」
珍しく声を荒げたクロウは微妙に気まずそうな顔をしている。
気になったキアラが追うように覗き込むと、やっぱり目線は逸らされてしまった。
それでもなだめるように軽く頭を撫でられ、浮かんだ疑問は一瞬で吹き飛んでいった。
クロウはたまにこうやって気安く触れる。
気まぐれに振り回される身としてはたまったものではないけれど、同時に嬉しさも感じてしまうのだ。
そんなキアラの気など知らないクロウは、なにごともなかったかのように手を離す。
「なんでもないから、こいつの言うことは信じるなよ。面白がって大袈裟に話しそうだからな」
「う、うん……」
髪にはまださっきの撫でられた感触が残っていて、心あらずな返事になってしまった。
「先に言っとくけど、別にやましいことはしてないから」
念押しするクロウはどうやら信用していないと思ったらしい。
気まずそうに自らの首を触るクロウの肩を軽く叩き、ケイは楽しそうに笑う。
「そうそう、別にやましくはない。こいつがモテて悔しいなぁ、て話。なんでこんなのがいいんだろうね。愛想ないのにさ」
ね? と同意を求められ、キアラはぎこちない笑みだけで返す。
愛想のないクロウに惹かれている身としてはなにを言えばいいのかわからない。
それでも大声で反論はできなかった。だって彼はキアラを「クロウの妹」として認識しているのだから。




