log-006 そこは人との区切りであり
「領主様の視察があるの?」
「ああ、そうらしい。ここの領主は良い人で、時折視察して領民の生活から今後の政策を考えていて、今度こられるそうだよ」
…村の教会にして、子供たちの学び舎になっている教会。
本日の学びの授業を行っている中で、神父様がお知らせをしてきた。
「領主様ねー、偉い人だっけー?」
「そうそう、偉い人。この村…ナモアリ村があるカルク領を治めているカルク男爵様だね」
「視察って言っても、私たちが何かしたりするの?」
「ううん、全然何もしなくていい。ただ、いつも通りに過ごせば良いだけさ」
「お父さんたち、ちょっとは税金を安くしてほしいなぁ、って言っていたりするから頼むのはあり?」
「うーん、どうだろう。ここの男爵様は良心的な方で、これでも良いんだけどねぇ。というか、君の家の場合、お酒で消えるから今度目の前で酒樽を砕くとかお母さんが言っていなかったかい?」
「そういえばそっか。お父さんの自業自得なら仕方が無いかも」
子供たちの質問に対して、答える神父様。
さらっとどこかのご家庭の父親が哀れなことになる話もあったが、そんなことはどうでもいいだろう。
「大体3日後ぐらいに、来られるそうだけど、皆はいつも通りに過ごしてね。意識してぎこちなくなると、それはそれで視察の意味がなくなるからね」
「「「はーい」」」
「まぁ、視察と言っても大抵の領主は変装することが義務付けられているとのことだから、気が付かない可能性もあることも言っておくよ」
変装が義務付けられているのか、この国の領主。
本人だとバレないほうが、より自然に見やすくなると考えれば、理にはかなっているのかもしれない。
【変装ですか…授業用の教科書23ページにこの国の初代国王が義務にしたってありますね。国王自ら市井に赴いて確認していたことから、出来たようですよ】
教会での学習用に作られている教科書。
そのページをハクロが探し当て、内容を見せてきた。
確かに、初代国王がやって…イラストが、なんか視察というよりもこっそり遊びに来ているようなものにしか見えない。
もしや初代国王、ただ遊びに行くための建前が欲しいだけで義務付けにしたとか…いやいや、流石に無いか、そんなこと。
そんなこともありつつ、3日後。
本日、領主がこの村に視察に来る日になった。
ただし、事前に告知されていても、変装してきているのですぐに領主と分かる人はいない。
わからないように紛れ込むなら、最初から告知をしなくても良いような気がしなくもないのだが、様式美的なもので必要なのだろう。
まぁ、こんな田舎の人口がさほど多くない村で、別の人が混ざっていたら目立つだろう。
変装していたとしても、村の人ではない時点で可能性は非常に高い。
流れの商人だとか、宛てがない旅をしている旅人とかも、たまに来るが…おそらく、そういったものに紛れてくる可能性があるだろう。
一人や二人ぐらいならば、まだ確率的に領主の可能性が非常に高いだろうが…少人数ならばわかる話。
いや、でもこういう情報自体が実は嘘で、本当は既にこっそり混ざっていてもおかしくはないだろう。
「人が見てもわからないような感じの変装だったら、流石に厳しいかなぁ。ハクロは、そこのところはどうなの?」
【変装を見抜けるか、ですかね?そうですね、私だと…ちょっと、厳しいですね。基本的にジャック以外、人間のくくりで見ているので、実は違いが分からないんですよね。ああ、いえ、お義母様や他の村人たちで関係性が良ければ別の目で見ますので、分かるのですが、完全に赤の他人だと非常にわかりにくいんですよねぇ】
…一緒に過ごしていてわかりにくかったが、彼女の感性はモンスターとして持っている部分もある。
人とふれあっていたとしても、人はあくまでも「人」としか見えていないのだろうか。
一部の例外的なものがあるようだが、それはそれとして、変装している領主が村に混ざっていても気が付きにくいのだろう。
【あくまでも、見た目での話ですけれどね。他の部分では区別がついていますよ】
他の部分…容姿にとらわれずに、人では見えない何かではしっかり判別がついているらしい。
何を見ているのかはわからないが、それで区別がつくのであれば、それはそれで良いのか。
でも、そもそもの話として見つけたところで…何か意味があるのだろうか。
視察しに来ているだけであれば、僕らがやるようなことはない。
ただの何の変哲の無い、日常を過ごせば良いだけである。
「どこかで見ているかもしれないけど、普通に過ごせば良いか」
どういう人なのかは気になりもするが、日常に特に関わらないのであればそれはそれでいい。
ただ、タイミング的になんとなくだが、ハクロが来たことに関係しているのではないかと思い、変な風に思いこむようなことが無ければいいなと、考えるのであった…
さてさて、視察しにやってくるという領主様
変装して紛れているのかもしれないが、どこにいるのだろうか
いや、見つけたところで何かするわけでもないが…意識したら気になるものだしなぁ…
次回に続く!!
…ガチで手数が欲しい。やりたいことが多すぎる。