log-055 縁はどこかでつながって
…どことも知れない、異国の少女。
彼女からもらったものに関しては、今すぐに同行できるものではないと理解しつつ、懐へ入れて取っておくことにする。
こういう縁も、後で何かの役に立つだろうし…もしも再び再会できるときがあれば、話す機会があればきちんと話してみたほうが良いかなと思ったのだ。
それはさておき、本日の目的としては王都内の散策を行ったが…今のところ、いくつかはバイトを考えつつ、将来の糧にするならばどこが良いのか、色々と考えられる情報は入ってきていた。
「…でも、やるならば…うーん、商人関連のほうが良いのかな…?」
料理で喫茶店や食事処、武器や防具を売り買いする武具屋、ギルドの冒険者として出てくる依頼をこなす冒険者やその他なんでも屋…様々なものをいくつか見てきたが、その中でも一番良さそうなのは、商人として何か商売を起こすことである。
可能であれば、自力でやれるところはやりたいが、それでも限度はある。
ならば妥協して収めるところは収めて…商人の道になるのが良いのかもしれない。
ハクロの糸や、カトレアの木の実、ルミの凍てつく炎等、ギルドへ直接降ろすこともできるのだが、そういうった原材料からではなく、もう少し加工して発展させるのも面白いかもしれない。
「まぁ、そうなると完全に彼女たちに依存しかけるけど…そうならないように、将来的なことも考えて、代替案になりそうなものを探して商売していく旅も悪くはないか」
物事には必ず終わりが、今得られているものだとして、病気や災害、盗賊といった要因によって失われる可能性は十分ある。
彼女たちだって、不老不死ではない。
だからこそ、ある程度は頼りつつも、いつの日か頼らなくても良いようなものを探し求めて、動くのもありだろう。
いやまぁ、アンデッドのルミの場合は、アンデッドとしてとっくの前に寿命を放棄している気もするが…それはそれ、これはこれ、というものである。
やってみたいことが見つかったのであれば、後はそのために何をしていけばいいのか、考え、学んでいけばいい。
「取りあえず、どこかの店…飲食店とかよりも、何かの商品を扱うような店でのバイトを狙うべきか…学内なら、算術やらその手のものに出してみて‥かな」
色々と考えるのは楽しいが、今すぐに全部が出るわけではない。
後でゆっくりと計画を立てていくのも悪くはないだろう。
それに…
「…ねぇ、いるよね、ハクロ、カトレア、ルミ」
【【【!?】】】
ぼそっとつぶやいてみれば、どこかでびくっと震える音がした。
ああ、やっぱりか。道理で何かこう、平和過ぎた気がするのだ。
あの少女が誘拐された案件に関しては、何か思って対象外にしていたのだろうけれども…人ごみの多い中で、トラブルがさほど起きなかった原因は…
「こっそり、隠れているなら、出てきてよ」
【っ…い、一体いつから、バレていたのですか】
物陰から姿を現した、ハクロ達。
ジャックに言い当てられて、物凄く驚愕した表情になっており、気になるようだ。
「うーん、途中から…かな?あの誘拐事件は範囲外としても…なんとなく今日、そこまで変な人を見かけなかったからそう思ってね」
人混みが多い、王都の中でそんなに巡り合うことが無かった、考えられる限りの不審者など…そう毎日出る様なものでもないだろうが、それでもちょっと遭遇しにくかったことに違和感を感じたのである。
何故なのかと少し考え…そして、この結論に至っていたのだ。
「ハクロ達が、どこかで隠れて見て、事前に排除していたんじゃないかなって。ほら、ハクロって村であちこち見回りをして危険なものを排除していたし、カトレアの場合は草木から少しずつ情報を集められそうだし、ルミは騎士としての正義感もあるだろうからね。それぞれが一緒に隠れて行動したら、絶対にやるんじゃないかなと…なんとなく、思えたんだよ」
【ふふふ…そはぁ、わからないようにしていましたけれども、さすがジャックです。バレてましたか】
【まぁ、ミーたちもある程度隠していたけど…隠し過ぎたら、それはそれでバレやすいかなとは思っていたなの】
【主殿の言う通り、我々は主殿の身の安全のために、隠れてやばそうな輩を捕まえては、衛兵所へ送っていたのだ。主君を守るのは、従者の務め。それを行っていたとはいえ…簡単に悟られるようでは、我々もまだまだ未熟ものなのかもな】
バレてしまい、苦笑するハクロ達。
それでも、守ってくれていたのは本当のことなので、咎める気も何もない。
「まぁ、せっかくだから…そろそろ寮へ戻る前に、一緒にみんなで、散策しようよ。一人の時間も大切だけど…やっぱり、一緒にいたほうが楽しいからね」
【…ええ、そうしましょう。最初からできればそうであってほしかったですが…それでも、嬉しいです】
【やったなの!!どうどうと一緒に、お買い物できるのなの!!】
【おっと、我はしっかりと騎士として、主殿の身の安全を守るために周囲の警戒は怠らないからな】
それぞれそう言いつつ、嬉しそうな表情を浮かべる。
単独での行動時間も悪くはなかったが、こうやって皆で一緒に過ごすほうが楽しいのだと、改めて思うのであった…
【…ところでジャック、先ほどまで助けた少女がいましたが、あの子とは大丈夫でしたか?】
「何が?うーん、何も言うことはないけど…しいて言うのならば、買い物に役立つ道具をお礼にもらったぐらいか」
【それは便利なの!!下調べを後でしておくのなの!!】
【ふむ、メイド付きの少女…感じ的には貴族のようだったが…あれ、何故だろう。メイドと聞くと、我の失われている生前の記憶に、何か恐怖の一ページがあったような…】
「どんな記憶なの、それ?」
…まぁ、確かにあのメイドさん般若の形相をしたところを見たので、怖かったのはなんとなくわかるが。
最後はやっぱりバレていた
いくら何でも、異常が無さすぎたからこそ、怪しんでしまうもの
それだけ彼女たちへの信頼もあるが…
次回に続く!!
…思い出したくない記憶というのは、誰にもあるもの
作者もあの黒歴史を消去したくはある…