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log-Final ~つなぎ留められるのは、その想い~

――――――かつて、魔王種と呼ばれた者たちが、一気に出た時代があった。


 たった一人の少年に皆が従い、大魔王として動いた時があった。


 けれども彼は争いを好まず、愛する家族とともに平穏な暮らしを望み、悪に与するようなことはなかった。





 もちろん、その強大な力を利用しようとする輩がいなかったわけではない。


 麗しき容姿をした彼女たちを放置せずに、愚かな者たちが出てきてしまうことはあった。


 けれども彼らが出てくる前に死力を尽くして、周囲のほうが必死になってどうにかして抑え込み、それなりに平和ではあったのだ…







『その陰で、どれほどの薬剤師や上の人たちが胃を痛めたのやら…』

【それは、仕方がない事だろう?我が主殿は、それほどまでに力があったというか…うん、我らのほうがぶっ飛び過ぎていたという自覚もあったというか】

『自覚あったのならもう少し自重しろよ…』



 うっそうと茂った、大きな大樹の前。


 そこで、ルミは久しぶりにやってきたゼリアスの言葉に対して、そう答える。




『まぁ、それでももうその時代も…終わるようだがな。これ、全部墓石か』

【うむ、主殿やハクロにカトレア…寿命のあった面子が、ここに埋まっておる】


…大魔王誕生から数百年。


 流石に魔王種へ変わったとはいえ、元がちゃんと寿命のあった生物ゆえに、長く生きていたものが多かったが、それでも限界はあったようだ。


『その言い方の時点でおかしくはあるがな…というか、寿命のあった面子と言うことは』

【うむ…アンデッドであった我や、スライムのファイだけしか残っておらぬ。従魔契約をしていた以上、基本的には主と同じぐらいしか生きられぬと思っておったが…ふふふ、それでも墓守りとして役に立てるのだから、良きことかな】



 魔王の命は尽き果て、ここに弔われる。


 ここは、安寧の場所として治めていた辺境…既にうっそうと森が生い茂っているが、不可侵の領域であることを感じさせるだろう。




【とはいえ、それも限度はあるようだ。我も、あと数日ほどで主の元へ召されるな。アンデッドではあるが…残すものはない】

『…そうか』


 かつての同僚同士、思うところはあるだろう。


 それゆえに、この場で最後に言葉を交えるのは名残惜しくもあるが…


【だが、それでも忠義を尽くすのならば、追いかけたほうが良いだろう?…一つ聞きたいが、あの世には聖女様もいたりするのか?】

『いや、あの聖女は…数年前に、ようやく…ほんっとうにほんっとうにようやく…転生してくれてな、今はいないぞ』

【言葉の節々から、相当苦労がにじみ出ているな】


 それは惜しいことだ。


 けれども、主がいるのであれば、その先へ向かうのが良いだろう。


【あとはファイだが…あちらも、稼働限界が近いのを察して、ギルドのほうで工作の終盤に取り掛かっている頃合いだ。もしも、主殿が再びこの世に生を受けた時に、手助けできるようにな】

『あのスライムは、ちゃっかりギルドマスター…もとい、総合的なほうで上り詰めまくっているからな…あっちはあっちでおかしいだろ』

【否定できぬな】


 何にせよ、自身の主に対して失礼な言い方ではあるが、思い返せば全員色々とお菓子な部分が多かったとは思う。


 この森もカトレアが作り上げているし、レイの聖歌が染み込んで邪悪過ぎるものは近寄れないし、ルトライトの魔法が未だに色褪せぬまま仕掛けられていて悪意あるものはその場で消し炭になる。



【ふふふ…つい、後世に残し過ぎるものを、作り上げたな我らは…】

『残し過ぎだから、その子孫も多いって』


 ツッコミを入れるのは無理もない。


 あの親にしてこの子ありというべきか…子孫もまた、同類と言って良いだろう。


 しかも数が多い。



【仕方がないだろう?ハクロやルトライトが…うむ、まぁ、その…何だ、主殿を棒人間にするレベルで、搾ったし…】

『言い方ぁ!!』



 その言葉に、思わず叫んでツッコミを入れてしまうゼリアス。


 同じ男として、彼には同情を物凄くしてしまうだろう。





 とにもかくにも、ここにやってきた当初の目的を思い出す。


『ああ、そうだったそうだった、その子孫の方だが、今度この森に来るらしい。祖先の墓参りとして花の代わりにドラゴンの生首を持ってくるらしいから、まだ留まれたらそのほうが良いぞと、声をかけにきたんだけっか』

【うそ…主殿の子孫、ぶっ飛び過ぎでは…?】

『もう少し、後世に向けての教育を真面目にやってから言え』


 はぁぁっとため息を履きつつ、せっかく来たので墓の方にも手を合わせて置く。


 悪魔であるからこそ、死者の行先もわかっているので、ここで伝えずとも直接向かうこともできる。


 だが、何事にも体裁だとか型式等があり…それに、もうこの世界で終わった命に対しては、これ以上何もすることはない。




『…何にせよ、お前の子孫は後世でも色々と波乱万丈な人生を歩んでいるぞ。安寧を求めるその思いは、誰も同じようだが‥ははっ、それでも求め合う部分は同じか』




…上位の悪魔…それこそ、大悪魔以上の存在には、実は未来も過去も、その時間の概念は関係ない。


 そこにいるのが当たり前であり、この場に居ながらもその先を見ることがある。



 それゆえに、見えているのだ。


 この先、ジャックもハクロも何度も生まれ変わるだろうが、一度結ばれ、糸がほどかれたとしても、めぐり合うその先が。


 お互いにぶつかり合うこともあるだろう。


 分かり合えず、争い合う…それでも、どこかでその思いは交じり合い、再び出会うのだ。



『どれほど繰り返しても、結局はお互いをいずれは愛する…か』



 そっと花を手向け、彼はその場を去る。


 いずれまた、この世界で再び巡り合う時が来るだろうが…いや、例え別の世界だとしてもきっとわかるだろう。




『絡み合う運命の糸…それが、繋ぎとめるのはお互いの深い愛ゆえか。ああ、でも…絶対にそれまで動乱ばかりで、平穏は…つなぎ留められないかな?』


 くすりと笑い、そしてその場から姿を消していく悪魔。


 そして、後に残されたのは長い年月を経て古びた墓石と、日の光で少しだけきらめくる蜘蛛の糸だけであった…





--完--

…終わりの果てでも、その先の彼らは続いていく

それはいくら繰り返しても、どこかでまた巡り合う

運命の糸は、ようやく悲劇から逃れられたのだから…

―――改めて『完』






‥‥ご愛読、ありがとうございました、

多分、今後ちょっと読み切り出しつつ…新作も出したいなぁ…

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