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log-213 絡み合うのは

…何か、大事なものを失った、大きな喪失感。


 いや、その原因は思いっきり目の前で起きたことだと断言できる。





 あの化け物の狙いは、自分ではなく…ハクロだったということを。


 彼女の何をどう狙っていたのか、その詳細までは分かるわけがない。


 ただ、それでもあの瞬間、つながりが立ち切れて…




【---殿、主殿!!目を覚ませ!!】

【なのなの!!まだミーたちよりは傷が浅いなの!!】

「っ…うあ…ルミに、カトレア…」




 ぽっかりと大きな穴が開いたような感覚を感じつつも、呼ばれて目を覚ませば、そこには従魔たちがいた。


 周辺一帯がぼろぼろになっており、彼女たちの姿も言うまでもない。


「そっか、あの化け物にぶっ飛ばされて…皆、大丈夫?」

【まぁ、なんとかな。そもそも我の場合、既に死人なのだが…鎧がちょっと罅が入ったぐらいか】

【ミーも、ズタボロだけど、何とかなっているのなの】

【あたしはちょっと瀕死ですがネ…全員、腹に来たのはちょっと重かっタ…】

【まぁまぁ、ファイがクッションとしてとっさに全員かばったので軽傷ですんでいるんだぜ。…金棒、どっか行ったけど】

【ふみゅっ…でも…】


 化け物吹っ飛ばされた瞬間、素早い判断でファイがそのスライムボディを活かして全員の衝撃を吸収し、ある程度和らげてくれたらしい。


 そのおかげでみな軽傷で済んだわけなのだが、それでもこの場にいない彼女に顔を暗くする。


「…ハクロだけ、か」

【目の前で喰らわれ、どうしようもなく…すまない、主殿】

【吹き飛ばされたついでに、吐き捨てたのか…これだけは、あるぜ】


 そう言いながら、ルトライトが取り出したのは…一つの宝石のようなもの。


 ところどころひびが入り、欠けている部分が多い真っ赤な小石サイズの…


「まさか、これって…!!」

【ああ、俺たちモンスター全員、体内にある魔石だ】



 ルトライトから手渡され、受け取ったジャックはすぐにその正体に気が付いた。


 これは間違いなく、ハクロのものだということを。



【中で、大部分が砕かれて喰らいつくされたようだが、破片がわずかに引っかかり、零れ落ちたようだ】

【ふみゅ‥‥】


 かみ砕かれた際に、零れ落ちたわずかな欠片。


 それが一緒に飛んできて、ここに来ていたのだ。



「ハクロ…ハクロの…ううっ…!!」


 ぎゅっと握り締めたくなりそうだが、既にボロボロになっている魔石。


 ぼろぼろと涙があふれでて、かかるだけでも砕けそうだが、抑えることができない。





『ーーーいや、その程度では壊れない。それで砕けたら、そもそもいつも壊れるだろ』

「っ!?その声は…!!」

【悪魔、ゼリアス…いや、お主だよな?なんだ、その姿】


 突然聞こえてきた、聞きおぼのある声。


 帝国の額園内で教師としてふるまっていた時とは違う、悪魔としての声だが、知っているもの。


 しかし、振り返って全員が目にすれば…予想外の姿をしていた。



『ははは…この姿の方を見せるのは初めてだからね。戸惑うのも無理はない』

【何故黒猫なんだ】


 その姿は、一匹の黒猫。


 目が赤く、毛並みも星明りがない夜空のように漆黒ながらも艶のある良い猫に見えるだろう。


『こっちもまた俺の姿でね。悪魔は何も、人型に限った姿で顕現する決まりもない。人の世を観察したりするときには、かなり便利だしなぁ…まぁ、うっかりすると保健所がある世界だと連れていかれそうになるが…』


 この世界にそんなものがあったかはともかく、ものすごく経験の重みもがある声だった。


 絶対に過去、連れていかれかけたんだろうなぁと思いつつも、ここに姿を現したのは何もその猫の姿を見せるだけではない。


『…ジャック。君の手に持っている、その魔石の欠片…それを、飲み込め』

「え?」

【魔石を、飲み込めと?】


 まさかの言葉に、全員が目を丸くする。






 

―――モンスターの魔石を、飲み込む。


 その方法は、意味があるのかと言えばそうではない。


 モンスターの体内に魔石があって、それで魔法を使えたりするのならば、同じように体内に取り入れてしまえば杖とか作る必要はないだろうと考え、過去に実験をやったという例があったりはする。


 しかしながら、どれもこれも失敗に終わっており、結論としては取り込むことはできず、場合によっては体内でつまり、外科的な療法でなければ取り出せない事態になったりする話も有る操舵。


 それなのに今、この目の前の悪魔はハクロの魔石を、ジャックに飲み込めと言ったのだ。



【そんな事、出来るはずがないのですガ】

『ああ、普通はできないさ。そうならないように、人間の肉体はできていて異物は排除されるものだしね。…けれどね、君はそうじゃない…()()()

「例外…?」




 悪魔の言葉に、ジャックたちは首をかしげる。


 これが悪魔のささやきとかいうものであれば、それこそろくでもない可能性も秘めているだろう。



 だがしかし、目の前の悪魔の目は嘘をついているものではない。



『それだけが、この状況をどうにかできる可能性がある…あくまでも、悪魔の想定する可能性だがね。仕掛けているものもあったが、確実ではない。だが、うまくいけば何もかも、そう、亡き者にされた彼女もまた取り戻せるかもしれない』

「…」



 それは悪魔にとっても、確実ではない話。


 想定している、推測している、あり得るかもしれないもしもの可能性…ほぼ同じ意味のあやふやなものになるからこそ、確証は持てない。



 だが、拒絶するかと言えば…



「…分かった。なら、そうさせてもらうよ」

【主殿!?悪魔の甘言にのることになるが、良いのか!?】

「他に、僕らがこれ以上何かする手段も無いからね。それに、ルミ。かつて、聖女様と一緒に、彼と肩を並べていた時期があっただろう?それで、あの悪魔が騙すような真似をするかと思うか?」

【ゼリアスが…か】


 ジャックの言葉に対して、ルミはゼリアスに目を向け、少し考えこむ。


 生前の記憶は失われ、思い出しつつある部分もあるが、そこから導き出せる答えは一つしかない。



【…無い。できれば、主殿に危ない橋を渡らせるような真似をさせてほしくはないが…この悪魔が騙したことがあるとすれば、聖女様に休暇の行先をまったく別の方向に伝えた時ぐらいか】

『…あの時は、本当に何でだよと叫びたくなったなぁ…真逆の休暇先を伝えてこられないようにしたはずなのに、人並外れた嗅覚と言うべきか…やめろ、思い出させるな』


 ルミの言葉を聞き、物凄いトラウマを思い出した表情を浮かべるゼリアス。


 色々気になるところだが、今はこれをするしかない。



「なら、飲むよ。…ハクロ、いただくね」


 そっと優しく、彼女の魔石のかけらを摘まみ上げ、口の中にいれて…







ーーーごくんっ

「うっ…!!」



 ゆっくりと、短いはずなのに長い時間が経過したように、魔石がジャックの中へ飲み込まれた。

 それと同時に、ジャックの意識も何かに飲み込まれたかのように、暗転したのであった…

一口、たったそれだけのこと

この程度でどうにかなるのか、疑念は抱く

けれども、この一手で…

次回に続く!!



…終わりがもう間もなくっと

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