log-212 クラッタモノ
―――その報告は、前に聞いていた。
格が落ちて、モンスターになっているものがいると。
強大な力を持つものが、何故そんなことになるのか。
何かこう、大きなことをやらばければそんなことにはならず、なにかこう、受け入れがたい運命でも捻じ曲げようとでもしたのだろうか。
とはいえ、何をしでかしていたのかはどうでもいい事。
万が一の保険のために、利用できるのであれば、それで良く…
ゴリュ、バキィッツ、グシュッ…
【オ、オ、オォォォゥ!!】
噛みしめ、砕き、搾り上げ、中で溢れ出てくるその力に、ソレは歓喜の声を上げる。
考えていたこととはいえ、実際に実行に移してみれば、こうも甘美な味わいを得られるとは思いもしなかった。
【蘇ル、蘇ルゾ!!カラダノソコカラ、ココロノソコカラ、タマシイノオクソコカラ!!】
どくどくと流れ込むその全てが、ソレの溢れんばかりに膨れ上がるだけだった肉体を引き締め、そのありようを変えていく。
あれだけの膨大な力、これで本当に格が落ちた存在と言うのであれば、元はどれほどのものだったのだろうか想像はつかない。
だが、そんなことはどうだっていい。
これが自分の力になったのであれば、気にするようなことではあるまい。
「あ…あ…ハク…ロ…」
ソレの目の前で、誰も彼もが絶望の顔色になり、最もショックを受けているであろう少年もいるが…むしろ、これを得る機会のための罠になってくれたことに感謝したいほど。
正面から喰らうわけにはいかず、だからこそ…最も、彼女が無防備になるであろう、最愛を守る瞬間を狙い仕掛けておいたのだ。
【---コウイウトキ、ナントイウンダッタカ…アア、ゴチソウサマダッタカ】
手を合わせ、心の底からの感謝をソレは告げる。
ありがとう、愚かにも愛に狂った存在ゆえに、本来の力を発揮できずにいてくれて。
ありがとう、その愛ゆえに釣られ、罠にかかる愚かなものになってくれて。
ありがとう、その身に秘めていたすべての力を、我が糧として利用させてもらって。
様々な思いが渦巻くが、それでも一番思うのは…この身に宿る力が完全に戻ったこと。
いや、それどころかさらに上の…それこそ、この世界を作り直すだけの神としての力を得たことに対する感謝だろうか。
紛い物の、魔の王としての力はもう、いらない。
復活したそれは、まずは長い間耐え忍び、過ごしてきたこの世界を…思うが儘につくりかえることを決める。
【---さぁ、称えよ、新たな創造神の誕生を。世界を作り変えるために破壊する、破壊神の偉業を畏れろ】
ぐぐっと多くの腕を動かし、まずは邪魔な羽虫を消し飛ばすため毘、腕を振るう。
それだけで、先ほどまで自身の脅威となっていたものたちがあっけなく噴き飛ばされ、消えていく。
【ハハ、ハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハ!!】
その万能さに、己の身に宿った強大さに、ソレは…既に邪神と化したものは高らかに笑いを告げ、世界を作り変えようと動く。
その光景を、遠くから見ている者がいたが…今更、それを察知したところでどうでもいい。
これから、この世界を手中に収めるための偉業を成し遂げようとする力の前には、何もかもが無意味になるのだと、信じて疑っていないのだから‥‥
『---ああ、想定できる中で、最悪の事態になったか。…まぁ、想定外を引き起こされることがないのは、それだけ凡庸な…』
―――最悪の事態
それでもなお、変えようがある
いくらでも…
次回に続く!!
…終わりが見えてきたか