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log-001 その出会いは偶然だったのか

…夢というものは、何もないところから生まれたのではなく、過去の記憶から作られたものだという話がある。

 知らないことであれば夢の中では出せないか、あるいは何かに置換されているだろう。

 知っていことであれば夢の中ではいくらでも出せて、情報があればあるだけ、より細かく出てくるのだろう。



 それなら、この夢は何なのか。


 もしも、記憶にあるモノならば、一体どこで僕はこの光景を見ているのか。





『---、---!!』

 

 誰かが、泣いている。

 その言葉はわからないが、大雨のように涙が降り注いでくる。

 

 何で、泣いているの。

 ねぇ、どうして悲しいの。


 あなたには、春風のような温かくて優しい顔と声が似合っているのに。




 ああ、どうしてだろうか。

 涙を止めさせたくとも、悲しみを慰めたくとも、何故か動かない。


 そんな僕に対して、貴女は泣き続ける。


 その悲しみの涙を、どうにかして止めたい。

 けれどもできないこのもどかしさは何だろうか。



 次第にその光景は薄れていき、どこの誰なのかもわからない彼女の声が闇と共に消えていく。

 最後に見たのは、何だったのか…何か、絡みつくような音もしたような…









「…また、この夢か」


 夢の中の自分が消えると同時に、現実へと舞い戻る。

 可能ならば、このまま夢の中でどうにか動いて泣いていた彼女…誰なのかもわからない、夢の中のあの子を慰めたかった。


 しかし今、この状況はむしろ僕のほうが慰めてほしい。



【ゴブゴブゴギャベェ!!】

【ビグギビュゥ!!】


 夢から目が覚めた現実世界のほうが辛く悲しいことが多いが、この状況がまさにそれを言い表しているだろう。

 目の前で不気味に笑うのは、醜悪な小鬼のような化け物…一般的にゴブリン等と呼ばれているモンスターである。


 よくファンタジーとかでは善か悪か極端に分かれて描かれていることが多いが、明らかにここにいるやつらは後者である。

 

 何故そんなことを考えるのか…いわゆる、転生者としての記憶なのかもしれない。

 よく異世界転生ものとかではテンプレのものがあり、彼らはそのテンプレの代表格と言って良い類の者たち。


 できれば前者を望みたかったが…ここでは、後者なのだろう。



 転生者、一般的にファンタジーな異世界物の中ではメジャーなものなのかもしれない存在。

 本当の世界とは異なる、絵空事のような物事が起こる場所にして、死して辿り着き、夢物語のごとく動くことができるところとして有名だろう…ということを、なんとなく知っている。


 だがしかし、悲しいことにそう都合が良い話は存在しない。

 異世界転生ものであれば無敵のチートがあるからなどと言われそうなものだが、そんなものはこの現実において無情なまでに存在することがない。

 まぁ、これが最初の転生とかではなく二度目の生のような、その時に何かを経て失われたものがあるような気がしなくもないのはあるだろう。


 あるとすれば、ただだ一つ、のんきな異世界の田舎村で過ごしていただけの少年の肉体のみという非情な現実だけだ。



 そもそも、そういうチート物の場合、何かの神様に出会っていたとかそういう話があるのかもしれないが、そんな経験も無いので単純に記憶を少し引き継いだ次の人生という感覚だ。



 しかし、知識があっても技術や材料、資金などの高い壁があり、持っていたとしても生まれた場所は物凄いド田舎の村。

 幸いなことに悪政が敷かれた村とかではなく、のんびりとしたところだったので問題なく過ごすことができるが、田舎ゆえにやれることも限られる。


 そのため、転生知識チートの夢も同時に尽きることになってしまったが…まぁ、そこまで潰されているのならばむしろ諦めがしっかりとつくもの。

 元々前世の世界でも凡人にすぎなかったのだから、今世で高望みをする気はない。


 むしろ、前世ほど発展していない世界とは言え、物凄い戦乱の世の中という場所ではなく、物凄いド田舎に、平穏な世界へ新たな生を生まれてくることができたと思えば幸運な方かと思うのが良いだろう。




 そんなわけで、異世界転生者であるという自覚はあるが、特に対して使うこともなく、ただの一般村民として過ごすことになった。


 この新しい生でジャックという名前も与えられ、毒親とか厳しい風習がある場所でもない、のんびりとした平和村だったのもあり、健やかに過ごせていただろう。




 そして10歳になってから今日この頃、本日は家の手伝いも兼ねて、家族の糧の手助けにできないかと思って、せめてもの限られた知識と材料で、森に仕掛けていた罠を確認しに来て…襲われて、今に至るのである。


【ゴヤブベェ!!】

【ゴギャガヤ!!】

(…ほぼ、間違いなくあのゴブリンに一撃をもらって、気絶したんだろうなぁ)



 前世の世界ではゲームの中の存在でしかなかったようなモンスター。

 魔物だとか魔獣だとか、地域によって分かれているらしいが、世間一般的にはモンスターの名称のほうが広まっているようである。


 モンスター、それは獣に似たような見た目をしているものや、無機物のようなもの、人が作り出した人工的なもの等多種多様な分類に分かれると村の牧師様が昔の子供たちに教える中で聞いていたが、実際にこうやって目にするのは始めてだ。


 しかしながら、友好的なものや使役できるものならばともかく、大抵のものは人に害を与えるようで、広まっている中には魔獣の名称もあるように、獣としての部分も強く存在し、弱い人間を喰らうこともあるという恐怖の話もあったが…この状況で、その体験をしたくはなかった。




 特に、ゴブリンはちょっと知能が子供以上にあるモンスターらしく、道具を使ったりして狩りを行うこともできると聞いていたが、どうやらこの身が彼らにとって都合のいい、哀れな獲物として選ばれてしまったようである。


 村の周辺にモンスターが出る情報はなかったと思うのだが…うーん、こいつらどこかからつい最近やってきたのか、あるいは生れ落ちてきたのか…細かいことを考えるのは、後回しにするか。



 今は、どう考えてもここで思いっきり、狩ろうとしている様子にしか見えない。

 あきらかにここで、起こして焼いて食べる気満々の顔をしているよ。


 気絶させたまま調理されるのも嫌だが、意識がある状態でやられるのも嫌すぎる。



 こういう人を襲うタイプのモンスターの場合、やばい習性もあると聞く。

 その一つが、「恐怖におびえた獲物を喰らう」というもの。

 要は生きたまま、悲鳴を聞きながら食べるのが彼らにとっての共有のエッセンスになっているのだろうか。死ぬ前のドーパミンとかなんとか、そういうのがドバドバ出ているのか、嫌すぎる自然の知恵を身に着けているものだ。



「僕はまだ小さいし、おいしくないよ!!」

【ゴギャバババア!!】

【ゴブギャベェ!!】


 

 抵抗を試みるが、しっかりと手足が蔓のようなもので拘束されており、じたばたともがくも意味をなすことはない。

 それどころか怯えている様子を理解して楽しんでいるようで、にちゃにちゃといやらしい笑みを浮かべている。


 生粋の残虐性というべきなのか、生まれ持ってのドS因子でもあるのか…違うな、こういうのは単純に、趣味が悪いというほうが良いだろう。生前の、何か覚えていない知り合いの一人に真のドSとは何かと語るドMの知り合いから聞いたから間違いない。なぜ今、そんなどうでもいいことを思い出す。


 そんなどうでもいい思考で、この世の終わりにしたくない。

 異世界転生して、まだ幼い状態なんだよ。





 それでも、どうしようもない状況であることは嫌ほど理解させられ、もはやなすすべも何もないかと覚悟を決めそうになった…その時だった。






―――ズバンッ!!

【ゴ、ゴヤ、ベッツ!?】

【ゴヤベェェ!?】

「え?」



 何か切ったかのような音がした。

 何が切れたのか、そう思い見れば、目の前のゴブリンたちの一体の頭が無くなっていた。


 突然の出来事に、僕もゴブリンたちも何事かと状況を読み込めず、動きが止まる。



…その一瞬の思考の停止が、ゴブリンたちの方の最後の油断だったのだろう。

 次の瞬間、彼らの体が消えた。


 違う、宙に浮かび上がって…吊り上げられていた。

 首に何かきらりとなにか反射するものがあり、よく見ればかなり細い糸のようなものを首に巻かれているようだ。

 相当な頑丈さのようで、そのまま宙づりにして…自重に逆らうことができず、ごきっと音を立てて、絶命させた。



「い、一体何が…」


 何者かが、糸でゴブリンたちを全滅させたようだ。

 よく見れば、最初に首が無くなったやつのところにも、糸っぽいものがある、

 切断と宙づりで用途が違うのか、少し細さが異なるようだが…一体何者が、これを扱って…



【…良かった、無事だった】

「!?」


 声が聞こえてきた。

 人の言葉でありながらも、その発音は明らかにモンスターたちと同じような人ではない声。

 けれども、先ほどのゴブリンたちとは違い、敵意は無い…むしろ、どこかで聞いたことのあるような…



 そう考えていると、その声の主が…糸によってゴブリンたちを全滅させたと思わしきものが、木々の間から姿を現した。






…その姿もまた、モンスターなのだろう。

 大きな蜘蛛…その頭の位置する場所に、人の体のようなものがある。

 


 ふわふわの真っ白な毛を纏う大きな蜘蛛の体に乗った、美しい女性のようなもの。

 でも、何故だろう。初めて見る相手のはずなのに、どこかで見たかのような姿をしている。


 あれか、アラクネとかいう蜘蛛の体に人の体があるうという、モンスターなのだろうか?


 見た感じだと、白い肌色に銀髪…動きに邪魔になるのか長髪ではなく、片目を隠したようなショートカットにしているようだ。

 目の色は薄い桜色で、その容姿は美人と言える部類で、服装は…



「って、まずは何か着てよ!?いや、モンスターに服を着る習慣があるのかはどうでも良いけど、いきなり全裸は目の毒だよ!!」


…魂でいえばそこそこ年を取っているはず。

 まだ幼い少年の肉体で良かったが…いや、全然よくないか。何、あのスイカ。


 完全に、油断していた。これはこれで違った方向性で凶悪なモンスターではなかろうか。


【目の、毒?私の爪に毒はありますが、周囲にまき散らすようなものは無いはずですよ?】

「そういう意味じゃなぁぁぁぁぁい!!」


 人の言い方が理解できなかっただけかもしれないが、何なのだこの回答は。

 何なのだ、天然感あふれる、このアラクネは!!

 いや、野生のモンスターなら確かに天然で間違いないかもしれないけど、どっちにしても意味が違うって!!誰か、彼女に服の大事さを教えてほしい!!


 


 ひとまずは、落ち着いて話せるようになるまで待ってもらいつつ、どうにか上だけでも隠せないかと、上着を貸してみるのであった…



ビリィッ!!

「…うん、まぁ、わかっていたよ。子供用衣服では、無理ってことが」

【えっと…とりあえず、糸で服?とかいうもの、作ってみますね】


 ぜひそうしてほしい。というか、それができるなら、最初からしてほしい。

 異世界転生をしたのはもしや、彼女に服を教えるためにという使命があったのではなかろうか…何その、悲しい転生目的。


 神よ、いるのであればせめて僕の身に前世の知識よりも、彼女の頭に衣服という知識を突っ込んで欲しかった…




 

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