log-178 短期で決着をつけるために
最初の攻撃からうまくいかないのわかっている。
どれほど攻撃を仕掛けようとも、少年としてのこの小さな肉体では決定打を与えることはできない。
それどころか、体格差がより顕著になり、相手の攻撃を一撃でも与えられたら不味いだろう。
(全身鎧かつ、大きな盾も邪魔だし、剣の腕前も中々…ゼリアスに比べたら鬼畜度合いは下がるけど、それでもか…)
ハコニワでの鬼畜魔王悪魔と言って良いようなあの所業と比較するのはさておき、学生の身とはいえそれでもステライトの剣技は中々のモノ。
学園で誰も彼もが自己研鑽し、己を高めているからこそ、ここでの生徒である彼もまた例にもれずしっかりとやっており、隙を見せてくれないだろう。
最初の奇襲こそ、泡の攻撃に驚かされてのモノだったとはいえ、余裕があるのはジャックよりステライトのほう。
防御力、攻撃力共に上回っているならではの冷静さをもって戦うことができるのだ。
ガァァンッヅ!!
「っ、それでもそっちも中々素早い…!!一撃でも当てれば大きく変えられるのに、当たらないか」
「ああ、こっちだってやられるわけにもいかないからね!!」
高速で翻弄してもその堅牢さを使って、攻撃をいなし防がれる。
体格差を活かした重い攻撃があっても、素早い動きですぐにかわされたり、あるいは手早く受け流されて空振りに終わる。
両者ともに決めの一手を決めきれず、下手をすれば長期戦になるだろう。
(だが、そうなった場合…こっちが不利か)
重量級の鎧を着ているステライトの体力は低下するだろうが、より素早く大きく体を動かしているジャックのほうが先に体力が付きかねない。
そうなれば均衡が保たれているこの状況で、崩れてしまえばそれだけであっけない終わりになる可能性がある。
「とはいえ、おとなしくやられるわけにもいかないし、短期決着させないとね…!こういう時に使えるのは…」
相手の攻撃をかわしながら、ローブの中を探るジャック。
回避戦法を活かすのならばもっと身軽な服装にすればいいのだが、一応はこれはハクロの糸で作った頑丈な布地であり、鎧よりもはるかに軽く丈夫な代物。
動きを阻害しないように伸縮性のある糸が各所に張り巡らされつつ、中は結構ゆったりとした作りでいくつかポケットが仕込まれており、様々な局面に合わせたものを取り出せるようにしているのだ。
「ここは、これだ!!カトレアお手製、『バンブーシーズ』!!」
その中から選んだのは、事前に仕込んでくれたハクロ達の道具の中で、カトレアが品種改良して作り上げた植物の種。
素早く水魔法で起こして、周囲にばらまけばすぐにその効果が表れる。
ボボボボボッヅ!!
「なっ!?なんだ、いきなり物凄い量の植物が‥!!」
先ほどまで草木も一本もない人工物だった場所に、突然大量の竹が生えそろう。
正確に言えば竹に似ているが別のもので、『ペーパーバンブー』と呼ばれるもの…見た目以上に薄く、それでいてしなやかさはそれ以上のもの。
加工すれば紙よりも安くはあるが、うっかり火事になれば物凄くはじけ飛ぶらしく、保管には厳重な管理が必要なので中々使用されないものでもあるが、ここではそのしなやかさが役に立つ。
「っと、これで一気に上からも攻める!!」
「何っ!?」
バンブーに素早く飛び移り、そのしなやかさですぐに反発して吹っ飛ばされつつ、別のバンブーへ乗り移っては相手の頭上を高速で動き回る。
ハクロが森の中で見せるような立体機動の簡易版であり、急成長の弊害でこのバンブーたちの寿命はわずか5分と儚過ぎるものだが、相手の動揺を誘うにはちょうどいい。
足場として利用しているのならばと切り倒そうとして来たとしても、ちょっとやそっとでは切れないどころか剣を弾くこともあり、機動力をすぐには奪えまい。
「なおかつ、何もトマホークは手でもって叩き切るようなことも無くて…こうもできるんだよ!!」
柄の部分を軽く弄れば、すぐにパカッと下の部分の蓋が取れて、中から長い糸が顔をのぞかせる。
それをしっかりと手に巻きつけつつ、相手に狙って投擲する。
「『ヨーヨートマホーク』!!」
ビュゴンッツ!!
「どわぁおぅ!?」
素早く投擲されたトマホークが直撃し、弾き飛ばすもまさか武器を投げ飛ばすは思っていなかっただろう。
なおかつ、投げても糸で結んでいるために手へ引っ張って戻し、再度投擲することができる。
ヨーヨーよりも結構凶悪な扱い方で、どちらかと言えば鎖鎌とかに近い扱いだが、鎖ではなく糸なのでヨーヨーのほうが似合うだろう。
なおかつ、途中で少し糸を揺らせばトマホークの飛翔する軌道も揺れ動き、予測が非常にしづらくなる。
「ついでに、もう一本持っているからね!!こっちは魔石が無いただのトマホークだけど、不規則な攻撃の雨あられを喰らえ!!『トマホークカーニバル』!!」
本当はもう一つ杖代わりにできるトマホークが欲しかったが、いかんせんこの戦法はそうなれておらず、うっかり魔法が両方共で暴発したら悲惨なことになるのが目に見えている。
そもそも、今は従魔禁止だからこそこの杖を使うが、ハクロ達がいれば必要性もそこまでなくなってしまうので、わざわざ仕込む必要性もない。
だからこそ、こっちはおまけの様なものなのだが、短期決戦のためにも引っ張り出し、扱うことにしたのだ。
「それそれそれぇ!!」
「ぐぅ!!なんだこの動きは、厄介すぎる!!」
操られるダブルトマホークは、それぞれ不規則過ぎる動きで迫り、ステライトの意識が防御のほうに割かれて攻撃の頻度が落ちてくる。
だからこそ逆にジャックのほうは回避よりも攻撃のほうに意識を集中させやすくなり、攻勢へ移すことができるのだ。
「正直言って本家本元には及びもしないけど、それでも彼女を近くで見てきたからね!!大体どういう動きなのかもわかっているから、これが一番扱いやすい!!」
立体機動で回避し、不気味なトマホークを躍らせて、ジャックは攻勢を強めていくのであった…
『いや、本当にあの動き、どっちかと言えばかなりキモいな…生きているようにすら見える』
『マスター、この戦法を思いついてハクロに頼み、教えてもらってましたからネ。見てくださいよ、観客席の彼女、思いっきり自分のことで恍惚とした笑みを浮かべて応援をしてますヨ』
『推しの活躍が見られて、昇天しかけているファンっぽいな…』
結構えぐい動きをしているような気がしなくもない
なお、ハクロがやればもっとやばいのになったりする
これでもまだ、見様見真似のコンパクト版で…
次回に続く!!
…本気のはまた別の機会に




