log-172 思いはあちこちで錯綜しつつ
―――夏季休暇も明ければ、学園内に人の気配が戻るのはどこの国でも同じだろう。
実家に帰省していたもの、貴族同士の交流会に出ずっぱりだったもの、趣味に没頭して旅に出たりあるいはイメチェンを試みて成功や大失敗をするものなど様々な光景は見ることができる。
その中で、時たま大暴走どころか大暴投と言うべきか、ぶっ飛んだ行動を起こしてしまうものもおり、大抵の場合、何かしらの火種になることは間違いない。
そう、例えば今ここで…
「…え?今、なんと?」
「だから、行っただろう。貴様に、決闘を申し込むと!!」
…昼下がりのゆったりとした時間。
昼食も終え、思い思いに生徒たちが学園の食堂で過ごす中…ジャックに対して、そう告げた者がいた。
「あなたは…ジェルブライド伯爵家のステライトですわね。何故、急に彼へ決闘を申し込むのですの?」
「ミラージュ様に名前を憶えていただいており、光栄ですが…あいにくながら、その理由まではすぐにお答えできません」
一緒に今度何を読もうかと、本を貸し借りしつつつあるミラージュがその決闘を告げた相手へ…ステライトという伯爵家の子息に対して問いかけるが、答えをすぐに得ることはできない。
「何にせよ、この決闘は正式なものとして既に、学園に申請してある。受けるか受けないかの返答は、明日の昼までだが…受けてもらうことを、望む」
そう言いながら、さっさとその場を去っていったステライト。
その光景に、周囲の生徒たちはあっけにとられていたのであった…
【…と言うことがあったのですが、誰か、今回の相手に関しての情報はないでしょうか?】
放課後、寮の室内にしてハクロが問いかければ、その場にいた面々は少し考えて口を開いた。
【んー、あたしは聞いたことがあるかモ?ジェルブライド伯爵家…確か、宝石の鉱山を所有している貴族家だったはズ】
「鉱山所有者の貴族家か…でもなんで、そんなところがいきなり、僕に対して決闘を申し込むの?」
ファイが情報を口に出すが、その家に関してわかっても決闘を申し込まれる理由が分からない。
【主殿に対して、まず正面からそんなことをする輩がいるとは思えなかったが…】
【決闘の方法によっては普通に、私たちがジャックの代わりに戦うこともしますからね】
ジャックに対しての恨みつらみを抱えているものがいないとは、否定しきれない。
何かと皇女と親しかったり、見た目は美しい従魔たちに囲まれていたりと、様々な争いの火種になるようなものがあるのは自覚してはいる。
しかし、それでも決闘を挑むのであれば、下手をすればハクロ達と争うことになり…そんな相手に対してまともに挑もうと考える者はそうそうないはず。
【ミーたちを狙って、賭けてくるとかはどうなの?】
【ふみゅ…ありえそう…かも?】
【ですが、あの様子ですと決闘を告げてきただけで、私たちを眼中に入れているような感じではなかったような…?】
決闘を突然告げてきたとき、ステライトはまっすぐにジャックの方を見ていた。
何かよこしまな気持ちがあれば、そばにいたハクロ達の方も見そうなものなのだが、見向きもしていなかった。
「んん-…だめだ、どうしてもわからないや」
【でしたら、どうしますか?明日には回答するべきですが…お断りしますか?】
「普通に考えれば、それが一番楽なんだろうけれども…何だろうな?」
その場ですぐに回答をさせず、決闘の受諾の判断は任せられた。
否応なしにやらせたいのであれば、もっと力強くやってきてもおかしくはないはず。
「あまりにも唐突過ぎて、訳が分からないし…まさか、悪魔にそそのかされたとかは…無いかもなぁ」
その方がまだすんなりと理解できるのだが、こんな方法を取ってくるかどうかと言われれば、ありえなくもないけどあの態度だと無い方の可能性が高い。
色々と気になりつつも、ひとまずは一晩中考え込むのであった…
【…と言うか、正式な決闘の申請をしていると伺いましたけど、そんなのあったんですね】
「一応、学生同士の実力向上の一環で、認められているらしいよ。ただ、一昔前の申請制度がない時は、ばちばちとぶつかり合うほど血気盛んな人も多かったようで、混乱を避けるために作られたとか…」
…なお、決闘内容自体も多岐にわたるようで、剣技や魔法、大食い、学力テスト、体力勝負等々繰り広げられ、申請書の決闘方法の内容はずらっと行われてきた多くの歴史が垣間見えるようになっていたりするらしい。
突如申し込まれた決闘
何を考えてやったのかはわからないが、
拒絶も一応できるようで…
次回に続く!!
…さぁ、その理由やいかに
あと花粉がそろそろ…




