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log-167 帰郷/センセンフコク

―――ナモアリ村が滅亡して、最初こそ国が直ぐさま動いて生存者がわずかでもいないかと探したようだが、その全てが叩き潰されるような形であり、希望は潰えたようだ。


 悪魔に襲撃されたという可能性に関しては、帝国にちょうどいたゴゴンドラズたちが一応その手の専門家集団でもあることから確認へ赴き、完全に悪魔の仕業である断定したらしい。



 悲惨な状態でありつつ、なおかつ再復興が難しいほど悪魔の手によるものなのか瘴気などとよばれるものもあふれ出していたようだが、色々な手段で浄化されてどうにか収まり…




「…アンデッド化を防ぐための大規模集団火葬に、慰霊碑での鎮魂などもあって…あとは、これだけか」



 かつて存在していた、大事な故郷。

 

 悪魔の再襲撃の可能性も考慮された結果、廃村が決定し…ここにはもう、誰も住まうことはない。


 あるのはただ、大きく作られた慰霊碑及び、きれいさっぱりとがれきの山等が片づけられ…ようやく雑草が少しづつ生えつつあるだけの荒野のみ。







 夏季休暇となり、ジャックたちはこの地へ訪れていた。


 本当なら今頃は、実家でゆっくりと過ごしつつ、両親や村の皆と穏やかな時が過ごせただろうが、その時間はもう帰ってこない。




 ナモアリ村へ向かう馬車の便は停止されたが…面子的に、自力で向かえないことは無いので、実際に目で見て受け入れようと思い立ち、ここへ来たのだ。


【…なにも、無くなりましたね】

【ふみゅ…初めて来たけど、ここに本当に、村が…?】

【あったのなの。ミーたちも一緒に過ごして、良い場所だったなの】


 レイは初めてだが、他の面子も毎年の夏季休暇でしっかりと訪れて、ともに時間を過ごした場所。


 それゆえに、この失われた光景にハクロもカトレアも心を痛めないわけがない。


【まぁ、我の場合夜中に見回りをしていたら、驚かれたことが数回あったがな…あの悲鳴も、次第に無くなったが…】

【青白い焔を出す首なしの身体があったら、そりゃ悲鳴を上げますヨ。あたしも似たようなもので、若干透けていた状態で幽霊化と思われた時がありましたガ】

【それでも確かに、ここには人がいたんだぜ。‥‥ああ、嫌になるな、オレも同じようなものを味わったし…】


 ルミにファイ、ルトライトもそうつぶやきつつ、無くなった村に思いをはせる。


 平和な時間、ゆったりとした時間、穏やかに過ぎていたあの日々…それらはもう、ここには帰ってこない。



 いや、今は廃村が確定して消えていても、いつかはここにまた人が集い、少しづつ村になる可能性はあるだろう。





「…だけど…ああ、やっぱり無くなったということを、こうやって目で見て実感しても…受け入れたくないなぁ…」

【ジャック…】


 ぐっとこぶしを握り締め、様々な感情がジャックの中で渦巻く。


 滅びた故郷への悲しみ、それを行った悪魔への憎しみや恨み、もしも助けに行くようなことができたらの後悔に、失ってしまったものへの空虚さ…全てが渦巻き、それに整理を付けるにはまだ時間はかかる。



 わかってはいた、目で見て納得しようとした、それで終わらせようとした。


 過去は過去、変えられるわけがなく、前へ向くしかない。


 それでも、まだ経験が少ない若者の身であり…転生した記憶があってその分の年齢が精神に足されていたとしても、大事なものを失ったその思いは、簡単に片付くものではないのだ。


 その思いを感じ取り、ハクロ達がなんと声をかけたらいいのか迷っていた…その時だった。







『---まぁ、そのような気持ちになるのは分かるだろうが…これも、我々が受けた命令でもある。そのままおとなしく、受け入れ、敵対する意思を見せればまだマシになるんじゃないか』

「っ!!」

【何者!!】


 その場に聞きなれたくはないが、特徴的な悪魔の声が届き、全員すぐさま警戒態勢を取った。


  

 見れば、ジャックたちから少し離れた場所にその声の主が…渦巻くような門が出現しており、そこには一人の影があった。


「…悪魔か」

『ああ、そうだ。他の大罪悪魔は色々と出会ったようだが…こちらは初めてか。お初にお目にかかる、我が名は常識と憤怒をつ、』



【先手必勝・即敵抹殺でス!!『拡散スラ・カノン』!!】

【敵を穿て、『轟雷乱舞』!!】

【------ラァァァァァァァァ♪!!】


『かさど…おおっと!?』



 言葉を言い終える前に、長距離攻撃が素早いメンツがすぐさま動き、砲撃音が鳴り響く。


 ファイの拡散する光線が、ルトライトのガトリングのような雷撃の魔法が、レイの神獣種のスペックを活かした聖なる歌が一斉に飛び掛かり、大慌てで悪魔は何とか回避をした。



『あ、あっぶねぇ…名乗る前に、死ぬかと思っ、』

【ではここで首を飛ばしてくださいね。鎌でぶった切りますから】

【あるいは氷結し、砕け散れ】

【地面に突き刺して養分にしてあげるのなの】

『どわあああああああああああああああああ!!』



 攻撃はこれで終わりではない。


 瞬時にハクロが糸の大鎌を大量に作り上げて切りかかり、ルミが氷炎を纏って叩き切ろうとして、カトレアが大量の花を瞬時に咲かせてその蔦や蔓を伸ばして巻きつけようとする。


 

 だが、流石悪魔と言うべきか、彼女たちの猛攻も必死になって避け続ける。


『おいおいおいおいおいおーい!!ガチで死ぬ、あくまでもこれヤヴァイ!!がっつり恨まれるのはわかっていたけどシャレにならねぇぇ!!』

【ならそのまま、消え失せればよくないですか?】

『そんなこと言うなぁ!と言うか、見てないで助けてくれマチョスラー、ゲラト!!』

『ふむ?普段そこまで鍛えぬお主の、その必死に回避する筋肉の躍動が面白いのだが…まぁ話にならぬのならばできるようにせねばな』

『モゴモゴモゴォオ!!』



 絶望のような叫び声を悪魔があげる中、新たに姿を現したのは…見覚えのある悪魔。


 片方は、いつぞやかの竜種騒動の時に出てきた、知識と強欲のゲラト。

 ただし、以前遭遇した時は肉体はボロボロのガワとなっていたが、あれからさらに何かがあったのか、より人間っぽいようなガワが破れており、各所に包帯がまかれつつつも蠢く虫のような部分が見え、その口は大きく縫われていた。


 もう片方は、大闘争会の時に暗躍したという筋肉と傲慢のマチョスラーのようだったが…ワンピース体形ともいえるような、逆三角形の極限のような状態になっていた。


 


 それぞれが腕を振るい、一旦距離を取り…ジャックたちも、すぐに集まって警戒を強める。


『ぜぇ、ぜぇ、ぜえ…し、死ぬかと思った…』

『弱いな、筋肉をもっと鍛えれば良いだろうに』

『モゴモゴ』


 ようやく一息を付けるのか、地に膝を付け、物凄い汗を垂れ流す悪魔。


 こちらから先に仕掛けたが…味方っぽい悪魔からの扱いが少々雑な気がしなくもない。


「悪魔ども…お前たちが、何故ここにいる?いや、この村を襲ったのはお前らか」


『い、いかに…いかにも…正確に言えば、ほぼ見ているだけで…暴食のやつが…やったが…ぜひゅっ…かふっ…』

『ああ、そうだ。その通りだ。我々を呼び出したものからの命令でな、あることをするために、襲うように言われ、やったのだ。ここにはいないが、破滅と暴食のガビルードというやつがな。…まぁ、本来ならそのためにまたここへ来るように要請していたが…ちょっと今、真面目と怠惰のケルダーに用事があって不在ゆえに、代わりに我らが来たのだ』


 疲れ切った悪魔…常識と憤怒のガルストと小さく名乗ったようで、疲労困憊過ぎるゆえにゲラトから酸素吸入器のような蟲を口に付けつつ、マチョスラーが代わりに答えた。



 どうやら完全に、あの色欲や嫉妬と同系統の、大罪の悪魔の手によってこの村が滅ぼされたことが確定したようである。



「あること、だと?何の目的だ」

『単純明快に主からの言伝を告げよう。…ジャック及び、その配下の従魔たちよ。我々は、貴様らに宣戦布告を告げるために、ここに来たのだ』

【宣戦布告ですか‥‥?】

【何をいまさらと言うか、色欲の事件で十分敵対していると思うのだが】


 大罪の悪魔…この世界に召喚されている彼らは、悪魔ゼリアスの話を聞く限りでは違法な召喚によって呼び出された者たちでもあるようだ。


 放置はできず、そもそもかなりやばいのはこれまでの積み重ねで十分理解しており…今更な感じがするだろう。


『くくく…ぜひゅっ…き、きちんとしたほうが…様式美として良いと…申告したのだ…ぐふっ…』

『敵対するのは、わかっていたこと。我が筋肉たちも、我らが召喚主に対して将来的に大きな障害になるものであれば、潰したほうが良いとも意見を聞いている』

『モゴゴゴ、モゴゴモゴゴ』


 この中で、ギリギリまともに話せそうなのが、どうみてもパワータイプにしか見えない大きな筋肉ダルマの悪魔なのは絵面的に異常な気がしなくもないが…それと村の壊滅に何の関係があるのか。


【村を滅ぼした理由は、なんですか?単純な宣戦布告を言うだけならば、直接来ても良いはずですよね】

『簡単なことだ…と言いたいが、うむ、その真意は知らぬ!!』

『モゴモゴモゴッツ』

『おいこら、マチョスラー…ぜぇ、ようやく息が整ってきた…、しっかりと聞いていただろうが。その真意はここで告げる意味はないが…何、後に嫌でも分かるようになるとのことだ。』

「どういうことだ?」

『…そうだな、わかりやすく言えば…人の常識が、お前たちを苦しめる…かな?』


 なんとか疲労から回復し、ガルストが立ち上がりながらそう口にする。


 人の常識が、何かを仕掛けてくるというか。



『まぁ、なんにせよ宣戦布告はなされたから帰るぞ。そのためだけに来たのに、襲われたその怒りはあるが…今はその時じゃないからな』

「待て!!」

【逃がさないですよ!!】


 ハクロ達が糸や蔓で捉えようとしたが、それでも逃げに徹した悪魔の動きは早かったようだ。


 ある程度の攻撃は通じたようだったが、地面に新たに門を作り、落ちるようにして逃げられてしまうのであった…




「…逃げたか」

【んー…惜しいですね。糸が入れませんでした。何ですか、あれ】

【むぅ、ゼリアスのやつが使っていたものとは、また別のものようだな。自動的に攻撃を切り取られるような…何だ、アレは?】


 

悪魔は告げただけ

しかし、それはゆっくりと遅効性の毒のように浸透していく

その悪意は…

次回に続く!!



…ハクロたちの攻撃を根性で回避してみせたが、もうちょっと頑張ればここで潰せました

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