log-158 神聖な物にも悪意はゆっくり
…神獣種。
それは、神の獣の名のごとく、聖なる力を持ったモンスターでもある。
悪魔であろうと死人であろうと、何であろうとも、その聖なる力によって浄化されたりするので、その価値を理解する者からすればかなりあるだろう。
なおかつ、そういう聖なるものだとか、神聖なものだとか言われたりする類は、そういうものにあやかろうとする輩にとってはさらに欲する者であり…
―――オオゾラハバタククロガネノツバサー♪
「…アレが、最近帝都で見られる神獣種のセイレーンか…名前はレイだったか」
「遠くからの観察でも、その聖歌の効果が見られますね…弱そうに見えますが、じわりじわりと周囲へ浸透し、軽い悪魔程度ならば消し飛ぶ状態になっております」
「軽く歌うだけでこれか…」
エルメリア帝国の帝都から少し離れた小高い丘の上。
そこには今、帝都の上空を羽ばたきながら歌う翼の少女の姿を観察している者たちがいた。
うかつに見つかると面倒なために、魔道具で姿を隠しつつも、距離が離れていながらも一応は職業柄で感じ取ることができるその力。
「神獣種が一体いるだけでも、宗教系国家ならばその価値を高めることができる…神の獣と言うだけあって、神の名をかたって体裁を立てようとする国々からすれば、強固過ぎる補強材にでも狙うだろう」
「それよりも、最近は何かと悪魔に関する物騒な話も漂っているからな…そういうものを避ける目的で、求めるものもいるだろうよ」
「それゆえに、得られるのならば欲しいが…そうはうまく事が進まぬか」
彼らはここに来るまでに噂話やその他情報収集をしていたが、あの翼の少女を手に入れるのは既にほぼ不可能なことを理解していた。
と言うか、神獣以上に余計に厄介なものも集まっていたようだ。
「既に主がいたのは、まぁ良いだろう。神獣種が留まってる時点で、誰かの従魔になっている可能性があった。その飼い主をどうにかできればよかったが…」
「その前に立ちはだかるのが、厄災種が二体にその予備軍…何だ、この一国を容易く落とせそうな面子は」
「だからこそ、手を出さぬか…」
得られた情報では、とある少年が彼女の主らしい。
しかも、その周囲には見麗しいモンスターたちも多く集っているとのことだが…その種類が大問題でしかない。
厄災種確定されているのが、様々な糸を操り手を操るようなアラクネと力自慢のはずが思いっきり魔法の方面がぶっ飛んでいるオーガ。
他にも予備軍扱いされながらも、死の宣告を扱えるデュラハンに、翼の生えた妖精のような花のような姿をしつつも植物を操るドライアド、他国から悪魔から身を守るために呼ばれた騎士団を軽くあしらったスライム…
「…いや、本当に何なの、この従魔を扱う主」
「予備軍と関係なく、明らかにヤバいのもいるのだが」
「色々とアウトだろ、これ」
出るわ出るわ、過剰な戦力。
一体だけでもヤバいのに、それがさらに束ねてやってくるのは恐怖しかない・
普通ならば、この中に突撃して神獣種を狙うなどと言うのは狂気の沙汰でしかないが…だが、彼らには秘策があった。
無理やり力づくでと言う方法は、どう考えても無理なので最初から選択肢にはない。
誰が堂々と真正面から、厄災種たちへ挑む気になれるというだろうか。
「答えはすごく単純に…彼女たちが、こちらへ来るように自らの意志で動くように仕向ければいい」
強制的にやることはできない。
しかし、その意志に関して言えば、影響を与える方法はあるのだ。
クククと不敵な笑い声を響かせつつ、彼らはその場から動いていく。
ほしいものを得るために、可能な限り被害の少ない手段を取るために…
「…しかし、真正面から愚策を選ぶやつがいたら、むしろ勇者と言いたくなるな、この面子は」
「悪魔ならばやれるか…?いや、その場合は悪魔が勇者になるのか…?」




