log-156 神は知らぬと答えようとも
ーーー神獣種。
それはモンスターの分類の中で、貴重なもの。
神の獣と書くだけあって、並のモンスターとは異なる点も多い。
その特徴の中には、基調が白色で聖なる方向での癒しの力を持つなどがあるらしいが…
「…それだけ聞くと、ハクロも色合い的には該当しそうなんだけどね」
【残念ながら、私はそうじゃないんですよねぇ…毒を扱えている時点で、違うらしいですし】
【オレも回復魔法は扱えるが、聖なるものじゃなくて電撃系で、体の色も違うしな】
色々な条件をすべて満たしてこそ、神獣種…場所によっては聖獣や神聖種なども呼ばれたりするらしいが、そんな簡単に達成するものはない。
だが、それ等を満たすモンスターこそが神獣種であり…この目の前のセイレーンの少女も該当するようだ。
「見るだけで、分かるものなのですか?」
「ああ、間違いないだろう。我々は、対悪魔用部隊…それゆえに、悪魔に対抗する可能性がありうるものを、感じることができるように訓練されており…その中で、聖なるものに関しても敏感になるのだ」
「その感性で今、確実にこの翼のモンスターに対して、神獣だと分かるのだ」
自信満々に答える、ゴゴンドラズの面々。
悪魔に対してのスペシャリストだからこそ、それに関係するものも理解できるとのことらしい。
ただ、その肝心の神獣種と呼ばれた彼女は興味なさそうな様子である。
【ふわぁ…ふみゅ、神獣?何それ、美味しいの?】
【全く理解していないようですが】
【まぁ、確かにモンスターにとってはどうでもいいことなの】
【そういう名称は人間側が付けるからですネ】
まったく気にしていない様子。
そんなのどこ吹く風という具合だ。
とにもかくにも、本当に神獣種ならばそれはそれで放置はできないらしい。
「聞きたいのだが…そこにいるファイさんの主だったか。この翼の少女もまた、君の従魔なのか?」
「いや、違います」
「ならば、我々のほうの従魔に…出来ないだろうか」
悪魔を討伐するには、少しでも力があるほうが良い。
神獣を従魔にできたのであれば、それでかなりの飛躍になるようだ。
だがしかし、肝心の彼女のほうにその意思があるのかと言えば…無いようだ。
【んー…嫌。いきなり、むさくるしい、おっさんたちに下るのは…ちょっと】
「「「ぐはぁぁっ!!」」」
ドストレートな物言いに対して、直撃するゴゴンドラズ。
確かに出会って間もなすぎる相手に誘われても、乗る気は起きないだろう。
【でも…ふみゅっ…この子のほうなら良いよー…、お弁当、美味しかったし】
ぐぉぉっと落ち込む面々を見つつ、そっとジャックのほうに近づいてそう告げるセイレーン。
「な、何故だ…何故聖なる力は、我らのほうに来ない…」
「神の使いともいえる神獣であれば、悪魔討伐を使命とする我々と利害が一致しても良いはずなのだが…」
落ち込みつつも、諦める様子はない様子。
率直な感想を告げられていたにもかかわらず、せめてもの情けを求め、すがるような声を上げる。
【…】
その様子を見て、セイレーンの彼女は呆れたような目をしつつ…一度目を閉じたかと思えば、次に開いた時には先ほどまでののんびりした表情から一転し、かなり冷たい顔へ切り替わった。
【しつこいの…嫌われるよ】
「「「ぐふっ!?」」」
【当たり前、利害の一致なんてものはわからない。ただ一つだけ、決まりきったこととしては…気に入ったかどうかだけ】
「「「おぐぅっ!?」」」
【それでこの子を選んだ、単純な理由に何か、文句…あるの?】
「「「がはぁっ!!」」」
「…わぉ、思った以上にぼっこぼこに」
【のんびり屋に見えて、ズバズバ切りますね…】
【もうやめてあげて、その人たちの精神力は0になっているのなの】
おいたわしいというべきか、なんというか。
言葉のナイフと言うのものが、ここまで鋭利に人を切り刻むなんて思いもしなかった。
【ふみゅっ…ちょっと、すっきり】
言いたいことが言えたのか、きらきらとするセイレーンの少女。
言葉の毒を吐く時点で神獣種と言って良いのだろうか。
【…でも、この人たちの精神、強固そう…明日には、復活しているかも?また来るだろうし…うん、そうなる前に…契約、してくれる?】
くるりと振り返り、ジャックに向かってそう告げるセイレーンの少女。
野良のままでは不屈の精神で何度も挑まれる可能性を想像したようで、従魔になろうと判断したようだ。
「ええ…うーん、皆、どうする?」
【オレは反対しないぜ。我が君の言うことであれば、それで良い】
【ミーとしては、微妙かも…飛ぶのに、大きいし…】
【我は問題ない。むしろ、今後を考えるなら神獣種の加入は大いに賛成するぞ】
【あたしとしても良いとは思うけど…動機がちょっとナー】
【私は…んー…ジャックのことなので賛成ではあるのですが…なんとなく完全にとは…】
少しばかり意見を求めてみるが、珍しく皆の意見がそろいきらない。
口を濁すというか、何か思うところもあるような感じである。
「…まぁ、全員完全に否定しないのなら…いいのかな?」
ひとまず賛成多数…約一名、何か私怨的なものが見え隠れしているような感じもするが問題ないだろう。
「それじゃ、本当に良いの?一応聞いておくけど、今ならまだ、あの群れに戻れるけど」
【ふみゅっ…大丈夫。あの群れも心地よかったけど…今日のこの人たちを見て、残らないほうが迷惑かけないかなって…いたら、何かこう、やってきそうだし】
神獣種が出たとなると、それを目当てにやってくる人がいるのかもしれない。
ならば先に群れを自ら出ることで、それを防ぐようだ。
…まぁ、その場合その神獣種を従魔にした僕らの方に矛先が向くかもしれないのだが…面子的に強気に出られる人がいるかと言えば、いないかもしれない。
というか、出る人が出ないほうが良い。確実に彼女たちにぶちのめされる未来しかない。
「そう考えると、中々したたかと言うか、腹黒いというか…神獣種なのか疑いたくなるけど…そうであっても無くても関係ないか。それじゃ、やるよ」
【うん】
意思を確認し、うなずいたところで従魔として名を付けるために、ルトライト以来、久しぶりの名付けの文言をジャックは唱えていく。
「『汝、その思いに偽りは無し。契りをかわして、名を与える。汝が拒絶するならば、名は与えられず、それもまた良し。汝に与える名は…《レイ》。それで、良きか』」
よくわからない、神獣種としての可能性。
弁当を共に食し、昼寝をしていた関係もあるが、それでもまだまだ浅い。
初めからきちんと知るために…0からというわけでもないが、それでも0から共にすると考えたほうが良い。
【ふみゅ…うん、レイ、それが名前になるのなら…これからその名前で呼んで】
同意を得て、従魔としての証がその翼に浮かび上がるのであった…
「…群れの中にいることはわかっていたが、こうもあっさりか。予想通りではあったが…まぁ、彼次第…個人的には、悲劇は好まないがな…」
…近くの木の陰に隠れて、とある悪魔がぼそりとつぶやくが、そのつぶやきを拾った者はいないのであった。
新しく、仲間になった
久しぶりのことだが、何やら不穏なことも
何事もないのが良いが…
次回に続く!!
…悲劇も喜劇も起こりえるもの




