log-155 今更ながらの遭遇運
…ぽかぽかでモフモフで、その中に包まれての昼寝と言うのは心地いい。
すっきりとした目覚めでググっと体を伸ばしつつ、そろそろピクニックの時間を切り上げるのも悪くはないだろう。
「そろそろ、寮へ戻っても良いけど…えっと、君はどうするの?」
【ふみゅ?んー…群れに、戻るだけだよー】
ぱたぱたと両翼をはばたかせ、セイレーンの彼女はジャックの質問に対してそう答える。
元々あのワタモコドリたちの群れにいたらしく、あの中に戻るようだ。
【あの群れが、貴女の居場所ですか?】
【うん、そうだよ。…気が付いたら、あの群れで過ごしていたよ】
「セイレーンはセイレーンの群れで過ごさないのか?」
【そのはずですが…どうも彼女、はぐれたまま過ごしているようですネ】
基本的に同族のモンスターの群れで過ごしていそうなものなのだが、何かしらの事情でまったくの別種が群れに混ざって過ごす例がないわけでもない。
特に、ワタモコドリの場合はそのふわもこに癒される目的で他のモンスターでさえも引き寄せられてフワフワされている間に、うっかり卵がそのまま置き去りになって、そのまま群れに組み込まれてしまうことも珍しくはないらしい。
そのせいもあってか、過去のワタモコドリの群れの中には、竜種が混ざっていたり、あるいは強風を引き起こすモンスターが混ざって世にも珍しい超高速の群れが出来上がったりと言う例は存在しているようだ。
このセイレーンの彼女もその例にもれず、気が付いたらワタモコドリたちと過ごし…いつしか普通に群れの一員として加わっていたようだ。
【直近の月間ワタモコォ情報誌では、目撃情報が無いので…割と最近、混ざったようですネ】
【何ですか、その情報誌】
【ワタモコドリファンクラブが発刊している情報誌でス。いくつかのグループが名づけられて、今日はどこどこで触れられるかもなど、3~4か月先ぐらいまでのワタモコドリ予報図などが出ているのでス】
人と言うものは、自身の情熱が燃え上がれば燃え上がるほど、そのような物を作るのだろう。
とにもかくにも、ここでお別れならば、それはそれで問題ない。
【ふみゅ…また、来る?】
「うーん、今日はこのワタモコドリの話を聞いて、ピクニックしに来ただけだから…都合が良かったら、また来るかもね」
テスト明けの褒美と言うか、休日の癒し追加と言うべきか、そのためにやってきたピクニック。
そのため、再度来るかと言われれば、そこでまだワタモコドリたちに埋もれている者たち程惹かれては無いのですぐに向かうことはない。
【そっか…ふみゅ、お弁当おいしかったし…抱き心地、良かったしなぁ…】
バタバタと羽ばたきつつホバリングしたまま、セイレーンはジャックたちを見てそう告げる。
【んー、ちょっと迷うような…】
「うぉおおおお!!なぜ我々は、ここへーーー!」
「欲望に負けぬようにしていたはずが、知らずとワタモコドリへーーー!!」
「ん?」
【何ですか?】
何か迷ったようなしぐさを見たとたん、響き渡ってきた声。
何事かと見れば、騎士鎧を身に纏った一団がモフモフにうずもれていた。
【あれは…神聖のゴゴンドラズですネ】
【ああ、確か他国から派遣されて、ファイに負けたという…】
どうやら先日、ファイに敗北したという騎士たち。
無事に立ち直って特訓しているとかいう噂があったが、どうやらその最中にこの群れに引き寄せられたらしい。
「うぐごごごお…やばい、もふが、モフに沈み込まれる…」
「悪魔の誘惑に負けぬぞぉ…いや、悪魔よりもやばい誘惑が…」
「誰か、助けて、もふにしずむぅ‥‥」
絵面的に、モフモフの海に沈み込む騎士たちは、このモフに負けないようにと抗っている様子。
しかし、あまりにもモフモフがモフモフしていることで抗いきれず、助けを求める手を伸ばすが、どこかの溶鉱炉に沈み込む機械と言うべきか…哀れにも見えてくるだろう。
「…ハクロ、糸で引っ張り上げて。僕らが直に行ったら、ミイラ取りがミイラになる」
【わかりましたよ】
しゅるるるっと糸を伸ばし、手早くハクロが騎士たちの手に糸を巻き付け、釣りあげる。
ずりずりと引きずり上げるが、モフモフの反発力も利用してそこまで苦労はせず、すぐに全員安全な場所まで引きずり上げた。
「ふぅ…助かった、礼を言おう…」
「あのままモフの海に沈み込めば、モフに抗いきれずに、モフモフの中にとどまる羽目になるかと…」
息を切らすようだが、肉体的に疲弊したわけではないだろう。
たとえで言うのであれば、「あと5分寝かせて…」とかそういう気分に近い。
「というか、そこのスライムは…ああ、ファイさんでしたか…ギルドでの戦い依頼で、その節はどうもです」
【どうもでス】
既にギルドのほうで知り合っているのもあってか、ファイの姿を見てすぐに確認する騎士たち。
「そうなると…この少年が、貴女の主及び、他のモンスターも…ん?」
「どうしましたか、ドスコイ隊ち…よぉ?」
ジャックたちを見て、ファイの主及びその仲間たちと考えたのだろう。
従魔たちをさっと見る中‥セイレーンを見て、彼らの動きが止まった。
「この気配…まさか、神獣種!?」
「え、まさかそんな…本当か」
「神獣…種?」
【ふみゅ?】
セイレーンに対して、そう口を開くゴゴンドラズ。
何やら確実に、面倒事の予感がよぎるのであった…
人に言われて気が付くこと
あるといえばあるけど組み合わせ的に嫌な予感
面倒事には巻き込まれたくはないが…
次回に続く!!
…モフで癒された裏での加圧っと




