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log-149 朝は一種の戦場で

―――トン、トン、トン


 早朝の、学園の食堂の調理室に手響く包丁の音。


 いつもならば生徒たちが来る前に、食堂勤めの方々が朝食のために腕を振るっているところだが、その一角には許可さえとれば使用可能な調理スペースが存在しており、そこで今、ハクロは動いていた。


【ピクニックには、お弁当が欠かせないですからね…ジャック用のはしっかりと、他の皆のは…まぁ、手を抜かずにしっかりしましょうか】


 番として、大事な人のための食事はしっかりできるようにするもの。

 そのため、本日行われるピクニックのためのお弁当を作るために早朝から用意していたのだ。


 そこまで眠る必要がない体の利点もあり、早朝の作業は苦ではない。


 しいていうのであれば、お弁当という限られた枠内に何をどれだけ入れるのか、その内容を考えるのが大変であり、練りに練り上げたものをここで出す必要がある。




 とはいえ、一人で調理するには、あの人数相手だと厳しいところ。

 だが、何も使える腕は限られた本数しかないわけではない。



【っと、ここはこれで…こっちはスライスをさせ続けて…】


 彼女の指に巻き付けられたいくつもの糸。

 その先には、同じく糸で作った多くの腕が存在しており、それぞれが具材や調理器具を扱っていた。



 複腕糸…ハクロの指の本数だけ扱える、手を模したものを扱える技。

 正確に言えば、後ろ足の二本以外でも使えるものだが、手の指のほうが器用に動かしやすく、こちらのほうが調理の手助けに活用できるのだ。



「アレ便利だが…光景が怖いな」

「無数の腕を、指の糸だけで動かすってどういう仕掛けだ‥?」

「あれだけあれば、人手不足も解消しそうだな…」


 その光景を見て、他にも調理場で生徒たちの朝食の用意をしていた驚愕させられるが、何よりもその利便性のほうをうらやむ者は多い。


 とはいえ、これは他者が扱えるような代物ではなく、アラクネと言う糸のスペシャリストだからこそ扱えるようなものなのだ。



【ふふふ、ピクニック、楽しみですね♪】


 鼻歌交じりに喜びを満ち溢れさせるその雰囲気に、少々うらやんでいた人たちも浄化されて、どこかほわほわとした優しい空気に切り替わっていく。


 昼のお弁当が非常に楽しみそうだが、一つ問題を上げるのならば、少々量を作り過ぎていないかと誰もツッコミを入れないことであった…










「ワタグモを確認!!」

「良し、本日昼前後に確実にやってくるぞぉぉぉ!!」

「「「うぉぉぉ!!ワタモコモコモコモォオオ!!」」」


 ハクロが楽しくお弁当を詰めているその頃、帝都近くの湖では今、観測組と呼ばれる者たちからの報告を受け、待機組や命がけ組などが喜びの雄たけびを上げていた。


 彼らの目的は、ここに訪れてくるワタモコドリとのフワフワな触れ合い。


 その触れ合いで日頃の仕事疲れやその他諸々のたまったものを浄化させ、徹底的にその癒しを求めるために心が一つな一同は、その知らせを聞いて全力で喜ぶ。


 ワタグモ…それは、ワタモコドリたちの飛行形態であり、集団で固まって飛ぶために雲のように見えるからこそ付けられらたもの。


 ただ、雲のように見えても実際の高さは低く、だからこそ見た目としてはわかりやすい。



「ワタモコドリたちの着陸場所安全確保組は!!」

「密猟者、当然のように出ましたが全員確保済み!!」

「天候祈祷組は!!」

「全力で祈りを捧げ、快晴確保!!嵐の予兆等も無し!!雨雲が来たとしても全力ぶっ飛ばすとのことです!!」

「狩猟組は!!」

「周辺天敵生物駆逐完了!!血の臭い等は残さないようにしつつ、周辺の環境を荒らさないように対応済み!!」

「いよっしゃ、最後まで気を抜かずに癒しを求めよ!!」

「「「癒しを求めよぉぉぉ!!」」」


 全力を出すこの疲れすらも、癒しのためならば何のその。

 その熱量もまたワタモコドリたちを吹っ飛ばしそうな気がしそうな気がしなくもないが、そのことすらも考慮にいれて対策も既に練っている。


 ワタモコドリたちとの触れ合いの陰には、彼らの猛烈な努力によって、支えられているものもあるのであった…



「…なお、観測班からの報告では、ワタグモ内部には既に、何体かその癒しに当てられたモンスターもいるとの報告もあります」

「いや、彼らもまた癒しを求めるもの…敵対、危害等なければ…放置で良いだろう」


…疲れている身でもあるからこそ、その中に包まれたくなる気持ちも分かるのであった。

癒しには全力で

それを求めるからこそ、人々は死力を尽くす

それだけそのふわふわは…

次回に続く!!



…癒しには種族も関係ない

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