log-012 ツッコミは一夜にしてならず
【---はぁ、やっぱり夜間の見回りはもう少し、花が欲しいですね。むぅ、でもお眠なジャックを連れ歩くのはちょっと良くない…いえ、ありよりのありですが、お義母様は許してくれなさそうですね】
…深夜、静まり返る村の中、ハクロは夜間の村内の警備にあたっていた。
普段眠る必要がそんなにないので、夜間の見回りに出ているのだが、眠気がなくとも夜の村の中は寂しくあり、ちょっとばかり癒しが欲しくなる。
一応、それでも畑の中に猪などの獣が入り込んで盗み食いをしている現場を取り押さえて、明日の食事に変えることができるので損はないのだが、それでも少しばかりの寂しさはあるのだ。
【暗い中よりも朝日が出てきたころ合いの、明るくなりつつ中でのジャックの顔を見るのが中々良いですしねぇ。何とも言えないのがもどかしい話です】
つぶやきつつ歩き、村の中を丁寧に見回っていく。
いくら討伐しても、人の住まう場所から物を奪ったほうが効率が良いと考える獣の討伐はきりがないため、油断はできないのだが…そんな中で、ふと、ある異変を彼女は感じ取った。
【…ん?】
村の周囲に張り巡らせた、万が一のことを考えて察知しやすいように仕掛けていた糸。
そのうちの一つに何か、反応があったような気がしたのだ。
【これは…獣ではないですね。何かの、モンスターでしょうか?】
獣たちとは異なる反応に警戒するハクロ。
なんとなくだが、猪や鹿などの獣とは異なるものであり、その数は一つや二つではない。
【群れで動く何か…その斥候のような動きですね】
ただのモンスターの群れならば、まだ気にしなかっただろう。
さっさと片付ければ済む話だったが、どうも動き方がおかしい。
まるで、こちらの様子を見ていたようで、感知されたことにも気が付き逃げたように動いたのだ。
人間の類ならば、数日前からちらほらとかかっていたが、こちらは悪意などは無いので放置していた。
しかし、このモンスターたちのほうは、どことなく悪意を感じ取れるのだ。
【…これは、ちょっと様子を見てきた方が良いですね】
なんとなく、嫌な予感がする。
そう思い、糸を遠隔操作してバレないように相手に付け、それを辿ってみることにした。
―――ナモアリ村から離れた、とある山の中。
そこでは今、ギルドより集められ、先に様子を見に来た冒険者たちがいたのだが…その光景に、目を疑っていた。
「…うわ、マジか、凄い数のゴブリンだ」
「しかも、情報通り普通のものがほんの一部で、大半がロードゴブリン…これは結構やばそうだ」
事前に情報を得ていたとはいえ、こうやってより正確な情報を探りに出てきてみれば、その危険性をより実感させられてしまうだろう。
普段そうお目にかかることのない上位種と呼ばれるような類が、これでもかというほどその場に広がっているのだ。
普通は、一つの群れの長として一匹ぐらいしかいなさそうなものなのに、それが群れを成している光景は異常な光景である。
「こりゃ、予想通りロード以上の何かがいるな…奴らは同種でも仲がいいわけでもなく、おたがいに争うというが、この様子は統制が取れ過ぎている」
「群れの長となる素質の者たちよりも、はるかに上の者がいるのが確定か」
「でも、ここまでの統率具合は普通の者ではないな。何かしらの特殊能力で、縛っているのか?」
「よく見れば、目がおかしいな…正気ではないようで、どこか中を見ているようにも思える」
何かが群れを統率しているようだが、ただのカリスマ性によるものではなさそうだ。
意識を半分奪っているかのように、その眼には光も何もなく、何かを聞いて動いているだけのもの。
催眠か、魅了か…その類のものがぱっと思い浮かぶだろう。
【【ゴブゴブブブゥ!!】】
「っ?!」
「しまった、気が付かれた!!」
いつの間にか他のゴブリンたちが彼らの周囲に来ており、咆哮を上げる。
それと同時に他のゴブリンたちが動きはじめ、向かってきた。
「やばい、ここで俺たちを狙ってきたぞ!!」
「まだ全容を解明していないとはいえ、調べ切られる前に消すつもりか!!」
奥の方のものたちは何か準備をしているのか動く様子はないが、周辺の近場にいたゴブリンたちで済ませるようで、武器をもって襲い掛かってくる。
通常のものであれば雑魚と言って良いようなものも多いはずだが、どうもこの群れはそんなこともなく、全てが普通よりも強化されているようだ。
ザシュ!!
「ぐわぁぁ!!足をやられたぁ!」
「だ、ダンデーム!!今、助けるぞ!!」
「駄目だ、ここは逃げて全力で他の奴らへ伝えろ!!この群れ、確実にただの群れじゃない!!」
「だが、お前を置いていけるか!!」
「馬鹿野郎!!ここで全滅して何になる!!生き延びて伝えやがれ!!せいぜい、勇敢な冒険者ダンデーム、ここで男らしく散ったともな!!」
一人の冒険者が弓で足を撃たれ、動けなくなる。
他の者たちが助けようとするも、この数を相手にまともな救助ができないどころか、下手すればここで全滅もあり得る。
そのため、撃たれてしまった冒険者…ダンデームは、自身を囮にして、皆を逃がすことを決意した。
「今日この一瞬を生き延びて過ごす、ダンデーム!!せめてもの花はここに咲かせ、証を残して見せようぞ!!」
覚悟を決めた男は今、他の皆を守るためにやれるだけの抵抗を行う。
ここで命が散っても、皆のためになるならばと…迫ってきたゴブリンたちへ、決死の刃を振るおうとしたその時だった。
シュルルルルル!!グィィィィ!!
【【【【ゴギュゲェェェ?!】】】】
「「「「え?」」」」
どこからともなく、何か糸のようなものが飛んできて、迫ってきたゴブリンたちの首へ巻き付く。
そのまま一気に上に引っ張り上げられ、男よりもゴブリンたちの命が儚く散らされた。
一瞬の出来事に、一体何が起きたのかと、周囲で見ていた者たちの理解は追い付かない。
そうこうしているうちに、この異常事態に気が付いたゴブリンたちが動こうとしたが…その前になぜか、大きな白い壁が構築され、接近を防いだ。
ドドドドン!!
【【【ゴゴゴブゥ!!】】】
【…無駄ですよ。それ、私の糸で編み上げた壁ですから。故郷でたまに見かけた魔猪すらも突進の衝撃で自らの首をへし折ってしまうような防壁になるもの、あなたがたでは破壊できませんよ】
先ほどまでいなかったはずなのに、そこにはなぜか人の姿があった。
いや、違う。人の声でもなく、大きな白い蜘蛛に腰を掛けているような美しい女性の姿が、そこにあった。
「な、な、何だ、これは一体…いや、君は何者なんだ…?」
【私ですか?んー、様子を見に来たら、何やら情報を持っているらしい人間さんを見つけて、助けに入っただけの、そのあたりに住まうただの蜘蛛ですよ】
「「「「いや、ただの蜘蛛は無理があるってぇぇぇぇぇ!!」」」」
助かったのは良いのだが、もっと別の異様なものを見つけてしまった。
その光景の衝撃もあったが、紡がれたその回答に対して思わずその場にいた全員がツッコミを入れてしまうのであった…
【まぁ、そういわれたら確かにただの蜘蛛では名乗りがおかしいですよね。既にただの蜘蛛ではなく、番を得た人妻蜘蛛ですもの】
「そういう意味じゃねぇ!!」
「まず、ただの蜘蛛名乗りができる容姿じゃないって!!」
「誰か、この人、人?にもうちょっと常識を供給してくれ!!」
「妻を名乗るならその夫の人、もうちょっとこの人(?)に常識を教えてあげろよ!!」
…助けられたのは良いのだが、戦闘よりもツッコミですごく消耗したと、後に彼らは語った。
おかしな反応を探りに行ったら、
何やら様子を探る人、これ幸いと思い、情報を取るために動く
得られたものから、彼女は何を思うのか…
次回に続く!!
…シリアスな空気は、そう長く持たなかった。
いや、これはちょっと貯蓄して…




