log-112 鬼の怒りは空より高く
―――パチパチパチ…
「っ…ごほっ…な、何…?」
意識がほぼ飛びそうなほどの激痛の中、ふとそれが消え失せ、身体が楽になった。
喉にちょっと溜まっていた血反吐も吐き出しつつ、見ればジャックの身体に手を当てている人の姿があった。
【---ふぅ、治療完了だぜ。良かった、ぶっつけ本番でやれると分かっていても、無事にできて…】
【ジャック、大丈夫ですか!!無事に治ったようで…!!】
「ハクロと…君は…?」
ぐぐっと体を起こせば、泣き叫びながら喜ぶハクロに、見たことのない女性の姿。
いや、まず人ではないが…赤い地肌に、黄色い瞳に短髪の金髪。
豊満な胸元には稲妻のような模様も入っており、来ている衣服はゆったりとしたローブのようでありつつ、チャイナドレスのような大胆なスリットが入っている。
何よりも、頭には大きく立派な二本の角が、ばちばちと紫電を放っているが…その容姿には、どこかあの子の面影があるような…
「…って、まさか」
【ええ、そうですジャック。この子…あのオーガの娘です】
「----はぁぁぁぁっ!?」
やみあがりとはいえ突然の事実を突きつけられ、驚愕の声を上げるジャック。
目を思いっきり見開きしっかりとその容姿を見るが、急成長にもほどがあると言いたいだろう。
「って、そういえばそもそも今戦闘中なんじゃ…悪魔は!?」
【大丈夫、今…カトレアとファイの連携でぶっ飛ばした後、全員彼女のエンチャントで強化されて、盛大にしばき倒していますからね】
「え、エンチャント?と言うかどういう状況で…ああ」
何がどうなっているのか気になるが、悪魔のことはどうなったのか。
そう問いかければ、ハクロはその方向を示し、目を向ければどういう状況なのかすぐに理解できた。
【『ボルトスラ・レイン』!!】
【『スパーキングバンブーアッパー』!!】
【『爆雷氷炎拳』!!】
『ぐっぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!』
降り注ぐ雷を纏った光の暴風雨に、地面から電撃を放ちながら出現する竹やりのようなものに突き刺され、その顔面に爆発する拳をぶつけられる、オーガの肉体をもった悪魔の姿。
戦況は当初は苦しかったはずだが…全員何故かバチバチと電撃を纏っており、普段以上に強力な攻撃を放っていた。
「あれが…エンチャント?」
【はい。どうも電撃を身に纏えるようになったようで…その分、全員パワーアップするみたいです】
【その通り。オレの電撃は他人にも施せるし、相手の弱体化に利用できるんだぜ!】
ハクロの説明に対して、言葉を話せるようになったオーガの少女がそう告げる。
にやりと口角を上げており、どこか誇らしげな表情をしているが、実際に相当強力なバフがかかるのだろう。
そのおかげで、悪魔が見ているこっちが憐れみそうになるほどフルボッコに叩きのめされているが…いや、同情する気も無いか。
「そっか、ありがとう…でもこれ、どういう感じになっているの?」
【どうやら、オーガから進化して…えっと、種族名としては『オーガ・エレクトリカルハイウィザード』になるみたいです】
【ふふん、電撃による強化が基本だけど、それ以外に魔法も扱えるようになったんだぜ!!そら、敵を打ち滅ぼせ、『バーストサンダー』!!】
ドンガラゴッシャァァァアン!!
『ぎゃあああああああああああああああああああ!!』
見ればいつの間にか杖を持っており、それを振り下ろしただけでとんでもない雷が悪魔へ直撃する。
雷を纏った拳を使っていたからある程度の電撃への耐性を持っている可能性もあったが…それすらもやすやすと貫通できるほどの威力のようだ。
【あはははは!!良いね、良いね、この力!!守るべきものを守るために、大事なものを失わないために願ってみるのも悪くなかった!!…これがもう少し早くあれば、もっと良かったけど…ああ、でも今は、守りたいものを守れたから良しとするぜ!】
「なんか、元気だったけど、ちょっと男勝りのような話し方になっているような…」
【進化して、正確とかも結構変わったみたいですが…いえ、もしかするとこっちが素だったのかもしれないですね。角が戻ってますし、それで元に戻ったとか…】
やけに意気揚々とするオーガの少女に対して、その変貌に驚かされるが元気になったのなら言うまでもない。
【さぁて、とどめをそろそろ刺してあげようか!!カトレアお姉ちゃん、ファイお姉ちゃん、ルミの姐さん!!申し訳ないけど、仲間のかたき討ちのために、トドメ譲って!!】
【む?別に良いのなの!】
【なら、譲りましょウ】
【何か我だけ、呼び方違くないか?まぁ、別に良いが…】
ばっとそれぞれが距離を取り、オーガの娘はボコボコにされている悪魔へ向き直る。
【さて…本当なら今すぐにでもちょっとやりたいことがあるけど…筋を通すならまずは、お前を絶対に倒さないといけないからね…仲間の、大好きだったお父さんの仇を取らせてもらうよ!!】
ぐわっと腕を振り上げると、上空が瞬時に雷雲で覆いつくされる。
ばちばちと放電し始め、ただの雷撃が落ちるのではないことを予感させる。
『や、止めろ、このガワを壊すな…!!やっと手に入れた、強い肉体なんだ…!』
ボコボコにされてもはやあちこちが悲惨な状態になっている悪魔だが、必死に懇願し始める。
どうやら相当この攻撃が不味いと理解しているようだが…彼女はそれに耳を貸すわけがない。
【この世界から、消えて滅びつくされろ!!『ライジング・ブレイカー』!!】
ドォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
『いっぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーー…』
…以前、別の悪魔が雷を堕としたことがあったが、それとは比較にならない極太の落雷。
それが悪魔全体を包み込むように堕とされ、断末魔と共に声が失われていく。
そして、ようやく落ち着いたころには…穴の底がかろうじて見えるほどの大穴が残されているだけとなり、悪魔の姿も形も、完全に失われた。
【…仇はとれたよ、お父さん、皆…】
ぎゅっと杖を握り締め、そうつぶやくオーガの少女の声。
勝利をつかんだとはいえ、失われたその重みを感じさせるのであった…
…あっさりとした最期を迎えたようだが、悪魔はこれで滅されたのか
色々と思うが、無事にこの局面は乗り越えられた模様
さぁ、後始末も、大人たちの胃痛の時もそこに迫って…
次回に続く!!
…なお、穴の底が本来見えないはずだが、周囲への影響を少しは考えた結果らしい。
やらかすと不味いのは、本能的に悟っていたのか




