log-108 アッキシュウライ、ダイエンジョウ
…グラビティ王国、王都東門。
その周囲は今厳戒態勢が取られており、人の行き来がすでに制限をかけられていた。
戦闘の巻き添えになってはいけないと、察した人たちは逃げ足早くその場所から離れていなくなっており、周囲一帯は霧に包まれていた。
その場所に向かって、疾走する土煙があり…門の周囲の様子を見たのか、一気に加速する。
何かが仕掛けられているのは、火を見るよりも明らかなもの。
だからこそ、力ずくで強行突破しようとでも考えたのか、ぐんぐんその勢いは増して霧の中へと飛び込んで…
【『死の宣告』!!】
【おおおっと!?】
ドォォォォォォンン!!
何かが猛烈に激突しあう音が響き渡り、一気に霧が晴れ、その光景を映し出す。
炎と落雷を纏ったような輝きを持つ巨大な鬼の腕と、まがまがしい光を纏う大剣を構えた騎士。
ぶつかり合いの衝撃で大地が砕け散っており、両者ともにつばぜり合いのような形となるが、すぐに力を抜いて距離を取った。
【あぶねぇ、あぶねぇ…まさか、デュラハンが潜んでいるとはな…今の死の宣告はぞくっとしたな】
【ちぃ、これで決まれば楽だったが…今の感覚、やはりそうか】
ぶるっと大げさに振るえるようなそぶりを見せる巨漢の鬼…オーガと対峙しながら、デュラハンのルミは大剣を構えなおし、油断せずに向き直る。
【貴様、中身は違うな?死の宣告は本来、生者に対して効果を発揮…心臓へ呪いを刻む、霧から中への侵入等いくつかの手段を有しているが…その肉体、生きているように見せかけた死体そのものであり、生者へかける時の感覚と違う上に、我らモンスターが使うものとは異なる発音にその気配…悪魔か】
【へぇ、このオーガの肉体のインパクトのほうが強いが、気配も感じ取って看破するとは…その審美眼に敬意を称して正体を見せようか‥‥ああ、悪魔だが…ただの悪魔じゃねぇぞ』
ルミの言葉に対し、にやりと不敵な笑みを浮かべ、オーガは…悪魔は全身に力を籠めながら言葉が変わり、口元が大きく裂けていく。
ぼうっと炎と電撃がその身を纏い、頭からはオーガの角とは明らかに異なる角が生み出される。
『貴様のような輩がいることは、蟲野郎や筋肉馬鹿からすでに聞いていたが、改めて名乗りを上げよう!!我が名は、「暴力と嫉妬のゴルズドン」!!嫉妬するほどうらやむものを奪いつくす、強欲候補でもあった悪魔だ!!』
【暴力と嫉妬のゴルズドン…か。その名乗りからすると、主殿と共に遭遇したことのある悪魔どもと同じようだが…人間のガワとやらを使わずに、オーガの肉体を使ったか】
『そうとも。何しろ、人の肉体というのは脆弱でな。人に紛れ込むには良いかもしれないが、そうする気はさらさらねぇ。だからこそ、オーガの群れを襲い、その長の肉体を奪ってやったのよ』
【オーガの群れ…長…まさか】
ゴルズドンの言葉を聞き、ルミは察する。
オーガは本来、仲間意識が非常に高いがゆえに、売るようなことはしない。
しかし、あのオーガの娘は仲間と共に売られたわけだが…その元凶は…
【そうか、貴様があの子の家族を奪ったのか…!!】
『ほぅ、どうやらそちらもある程度の情報から察したようだな』
ジャックと共に保護をした、あのオーガの娘。
彼女の境遇に関して色々と情報を聞いていたが、その全てから目の前のオーガ…その中身の悪魔が諸悪の根源だと理解し、憤怒の表情へ切り替わる。
【ここに来るとは、何か利用する気か!!】
『ああ、そうとも。この肉体の娘となれば、我が手駒。再び資金源と利用するために、そして今後の邪魔になるようなお前らの排除も兼ねてきたが…ん?いや、待て…その姿は…』
【何だ?】
両者ともに戦いの構えを解かず、隙を伺う中、ふとゴルズドンがルミの姿を見て何かに気が付いた。
『戦いの中でもあるが…顔を見せてみろ』
【貴様を射殺すほどの眼差しを向けるが…それがどうした?】
瞬時に着装できるが、何か不審に思い、ルミは少しだけフルフェイスの兜を消して顔を見せる。
『その怒りの表情…ああ、なるほど。お前か、先代色欲から、密かに狙いもしていたというアウトフェルノ聖国の鬼神聖女騎士団長アルミナ隊長!!当時の騎士団長リアと肩を並べ、聖女の護衛を務めていたという鬼才の持ち主!!』
【---我の、昔のことを知っているのか?】
『そうとも…最も、自分は当時はまだ下級過ぎて話を聞く程度しかなかったが…聖女を守ろうとして、腕の違いから右腕だけを飛ばされた騎士団長リアと違って、首を切り飛ばされた女騎士だとな。破滅の野郎が、酒に酔っぱらってウザがらみで昔の全盛期だった武勇伝を何度も聞かされ、見せられていた姿絵でビンッとわかったぜ』
ルミの言葉に対して、そう答えるゴルズドン。
どうやら彼女の過去に関して、仲間にその情報があるものが…いや、むしろ当事者と言って良いような輩がいるようだ。
【なるほど、そういうことか…ならばますます、今ここで貴様をぶちのめし、元凶を吐き出させる必要があるな!!】
頭をセットし、全身から氷の炎を吹き出し、ルミは素早く切りかかる。
『できるものならやってみな!!悪魔に敗北し、聖女を守れなかった女騎士団長よ!!』
全身を燃え上がらせた悪魔も迎え撃ち、お互いに炎を使いながらも真逆な性質を持つ、冷気と熱波がぶつかり合い、大爆発を引き起こすのであった…
出来るだけ、王都から離れた場所でやってもらえないだろうか
そう思えるほどの爆発が起きつつ、ぶつかり合う二人
さて、この勝負やいかに…
次回に続く!!
…ハクロ達が来る前に片づけられるか、それとも…




