第十三章 質実剛健(7)
いま、この場所でこれから起こるべきことを、シュブラウス城における重要な面々が揃い、一同に会して見守っている。
「輝甲竜騎士ギル・ギレン殿」
騎士隊長セシウス・スレイブズが右の足もとに斧槍の尻をつき、大音声で呼ばわった。
「貴殿は女性の身にして、このルーン王国の上級騎士たる資格を正式に認められ、我らが君主シド・ヴァーン公のみもとに仕えることを許された。そのことに敬意を表する。しかしだ」
スレイブズは、斧槍で石畳を二度叩き、強調の意を示した。
「我らシュブラウス城の護衛騎士団は、いまだかつて女性の騎士を迎えたことはない。私が思うに、女というのは太古の昔より、子を産み育てるという大役を担ってきた。女は、守られるべきものである。守るのは、我ら男の役目なのだ。戦の場に出て女が戦うのは、男の力が死に絶えたときと相場が決まっている。しかし、我ら男子は、この城と主を守るべくして力を結集し、今ここに立っているのである」
ここでいったん言葉を切ったスレイブズは、斧槍で再び石畳を叩いた。するとそれを聞いていた騎士たちが、すかさずおのれの盾を拳で叩き、同意を示した。スレイブズが手を挙げるまで、それは嵐のように止まなかった。ヴァーン公もスクルド夫人も、ディーンとカイトの二人も、その様子を黙然と見守っていた。
ただ、そのように拍手する騎士たちの中で、グウェイとギルそしてサンブルディの三人は、微動だにしなかった。スレイブズはサンブルディに目をとめて一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに次の言葉を継いだ。
「ゆえに、私は貴殿との勝負を望んだ。もし、剣にて我と勝負し、負けるようであれば私は貴殿の登城を認めぬ。聞けば公子殿下の護衛を務めると言うが、僅か八歳の殿下に一生の誓いを立てれば、貴殿はどこへも嫁ぐ時間というものがなくなるではないか?」
「覚悟の上です」
一声だけ、ギレンは高らかに叫んだ。
(カイト殿下のことを持ち出すなんて)
ギレンは、顔にこそ出さなかったが、内心は激しく怒りに燃えていた。女性蔑視の意識があるのに、それをカイトの年齢にかこつけて正当化しようとする、卑怯な言質が許せない。
だが、これでわかった。スレイブズ隊長は自分との戦いだけを望んでおり、他の騎士たちと勝負させる意志はない。ということは、少しはギレンの実力を認めているということであろう。
もし、他の騎士を勝負させてギレンが打ち負かせば、その騎士の面子を潰してしまうことになる。ルーンの騎士は誇り高い。不当な見方とはいえ、女騎士に負かされたとあっては、その騎士が辞職を願い出ることもあろう。
(……なるほど、だからサンブルディ殿に見極めさせたのか)
ギレンは兜を脇に抱え、絨毯の上に進み出た。足もとが白い魔術光を放ち、転倒による怪我から守る術が施されているとわかった。踏んでも、布地がずれる気配はない。高位の魔法で安定させられているのである。ギレンは、心の中で二人の公子と城主夫妻の心遣いに感謝した。
正方形の絨毯の中心には、ルーン王家の紋章の上に魔法陣が描かれていた。白い魔術光は、その円陣から放たれている。この絨毯は、正式な御前試合の場で使われるものだ。
ギレンは、いまだかつて御前試合にも、マーサリア国際競技大会にも出場したことはない。人前でその技を披露したことがあるのは、資格試験のときのみである。それ以外の出場は、師ローランド・ギレンに禁じられていた。だから、彼女には自分自身の実力がよくわからない。他の騎士に比べてどうであるのかとは、これまで一度も気にしたことがなかった。
ギレンにとって、騎士であることは自分の人生そのもの、それが当たり前だと思ってきた。なぜなら、彼女は輝甲竜に選ばれた騎士だからである。契約を交わした輝甲竜は、己に相応しい主を自分で選ぶ。ローランドはギレンを見出したが、ギレンの運命を決定したのは、聖なる炎の竜王アギスなのである。
竜たちも自らの王を抱く。竜王たちの中の最高指揮者はむろん天竜であり、即ちディーンとカイトである。しかし、竜はそれぞれの種族において、人間と同じように王を抱く。ギレンの契約者アギスと、グウェイの契約者アスタルスは、実は輝甲竜の王と王妃なのだ。
岩の民が崇敬する神聖な竜の王、そのアギスから主と認められたことは、ギレンにとって大きな誇りであるとともに、運命の重い鎖でもあった。アギスは一生をギレンに仕える誓いを立てたけれども、もしギレンがその資格に相応しい人物でなければ、主従の位は逆転してしまう。アギスは契約を離れて自由の身となり、ギレンは彼の従僕となる。
毎日が試練の連続なのだ。女性蔑視など気にしている暇はなかった。ギレンはただ、自分を統べる者でなければならなかった。もしも道を離れて不義をはたらいたときは、瞬時にアギスは彼女の心を、主に相応しくないと判断するだろう。だから、彼女は常に自分の心を欲や不正から遠ざけ、悪意を持たないようにしてきた。かつて養父ローランドと、その父レンドランドがそうしてきたように。




