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竜の剣  作者: 高倉麻耶
第一部 第十三章
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第十三章 質実剛健(4)

「ギレンさんはお気づきになったようですが、ぼくは生まれつき『竜眼』を持っているのです。竜眼のこと、ご存知ですか?」

「詳しくは知らないが、噂だけなら」


 竜眼というのは、魔法の力をそのまま視覚化して見ることができるという、特殊な能力のことである。普通の人間の眼には、魔法の効果のひとつである魔術光が発せられない限り、「流れ」の状態でしかない「魔法の力」をそのまま見ることはできない。


 道具としては、上級魔道士が使う「竜眼鏡」という特殊なレンズを通せば、辛うじて視覚化することはできる。それでも、竜眼を持つ者ほどはっきり識別できるものではない。ルーンの誇る大魔道士ソリス・メリル枢機卿は、常にその竜眼鏡を片目に嵌めている。


「ぼくの眼は、マ・アーリンの転生者を確実に見分けられます。なぜなら、彼は常に魔法の力を纏っているからです」

「すまないが――」


 グウェイは首を振った。彼の想像が及ぶ世界ではない。


「話がだいぶ逸れてしまったようだ。元に戻そう」

「ええ、わかってます、大丈夫……これも関係のある話なのです。とにかく聞いてください」


 仕方なく、グウェイは黙って頷いた。このまま夜が明けてしまいそうで心配だったが、どうやらキリウはもうじき話を終わらせるつもりのようだ。


「ぼくがシド大公殿下を二度目に見たのは、奥様と二人の公子殿下をお連れのときでした。そしてディーン様とカイト様のお二人が、体から凄まじい魔法の力を発しているのを見ました。それはもう驚いたのなんのって……お二人の持つ魔法の力は、天に届く柱のような、竜巻のような、本当に凄いものなのです」


 そういえばメリル卿が初めてディーンを見たとき、ひどく動揺していたのを覚えている。あれは、竜眼鏡で彼の力を目の当たりにした驚きだったのだ。


「それで、ぼくはまず大公殿下とお近づきになろうと考えました。有難いことに、ディーン殿下がそれに気づいてぼくを雇うよう進言してくださったのです。彼は心が読めますからね」

「それでこの城へ?」

「そうです。で、ぼくの仕事は自然と特殊なものになりました。もともとは自力で旅をして転生者を探すつもりでいたので、魔道士資格のほかに剣の修業もしていたのですが……幸運にも、ここルーンで天竜と巡り会うことができ、探すべき対象はマ・アーリンの転生者だけになりました」


 延々続いた二人の会話は、グウェイの小さな欠伸で終わった。キリウは「また明日話しましょう」と言って寝巻に着替え、布団に潜り込んだ。その背中は、やや猫背だがとてもしっかりした筋肉がついていた。


 月はもう沈みかけている。グウェイは毛布の上でごろりと寝返りをうった。二段ベッドの下からは、キリウの規則正しい呼吸音が聴こえてくる。さすがに話し疲れたのだろう、もうすっかり寝入ったようだ。しかしグウェイはなかなか寝付かれなかった。


(シドめ、とんでもない逸材を抱えていやがる)


 上級魔道騎士資格というのは、そう簡単に取れるようなものではない。グウェイはキリウ・リンドの持つ天才性がそら恐ろしくなってきた。


 騎士資格を得るには、剣術・槍術・操竜術の「基本三術」は当然のこと、そのほかにもうひとつ武術の免許を持っていることが第一の条件である。それはたとえば射弓術であったり、体術であったり、なにか自分の得意なものでいいということになっている。しかし、騎士資格の最初の試験は勝ち抜き戦で、この試合で敗北すれば「また来年」ということになってしまう。試合で勝てずに、何年も落第し続けている者もいるのだ。


 試合に勝てば、あとは学術試験のみ。ただしこの試験を受けるには身分証明書と紹介状が必要で、血族に貴族もしくは騎士がいなくてはならない。ただの平民出身の者は、剣士や戦士にはなれても騎士にはなれない規則である。


 リンド家というのはあまり有名ではないが、武人貴族の一派なので血統は申し分ないだろう。ただ、彼は髪の色や瞳の色が違うために、かなりの差別を受けたであろうことが容易に想像できる。もしもシドに拾われなければ、騎士としての就職先は得られなかったかもしれない。


 しかし、キリウ・リンドは騎士として職に就きたくて試験を受けたわけではない。彼は当初ファランに渡るつもりだったのだ。ルーン王国の騎士資格があれば、友好国の国境を自由に越えることができ、ミディアやファランで官吏になることも可能で、さらには都市での帯剣も許される。マ・アーリンの転生者を本気で探す場合には、実に好都合なのである。


 それにしても、騎士試験はただでさえ難しいのに、上級魔道騎士となるとさらにハードルが高い。騎士資格を手に入れた上で上級者戦闘試験を受け、さらに中級魔道士試験を受けなければならない。生まれつき竜眼を持つキリウはむしろ魔法のほうが得意なのだろうが、グウェイ自身は最後の中級魔道士試験に落ちた。それで受かっていれば上級魔道騎士になれたのだが、そんなに甘いものではない。その後何年か経って再挑戦してみたが、やはり彼には難し過ぎた。


 上級魔道士資格を持つ魔道騎士など、滅多にいない。グウェイの知る限りでは、ギルの養父ローランド・ギレン侯爵ただ一人である。ローランドは、グウェイの剣の師匠だったが、十年ほど前に病に倒れてからは見る影もなくやつれ果て、ひっそりと亡くなってしまった。ルーンで最高の英雄と讃えられたローランド・ギレンの最期は、養女のギル一人に見守られるだけの、実に寂しいものであった。


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