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竜の剣  作者: 高倉麻耶
第一部 第十三章
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第十三章 質実剛健(3)

「さすがですね。これは四つの『竜具』のひとつで、『竜杯』と呼ばれるものです。しかし、杯に似ているからそう呼ばれているだけであって、実際は魔法を使うための器具なのです」


 キリウは手を伸ばし、グウェイの手からその竜杯と皮袋を受け取った。


「メリル家にあった『竜鏡』をご覧になったでしょう?」

「ああ。使うところも見た」

「それは羨ましい」


 微笑を浮かべながら、キリウは竜杯をもとのように仕舞い込み、首に提げた。彼の膝の上では、火鼠クロエが円を描いて、くるくるまわりながら無邪気に走っている。


「ぼくはこの『竜杯』を使うことができるはずなんですが、今はまだ使用不可能な状態なので、使ったことがないのです。母の話では、これは本来二つ一組のもので、二つ一緒に持っていないと使えないものだそうです。この竜杯は『火と風の器』。もう片方は『土と水の器』、これとまったく同じ形をしたものが、もうひとつどこかにあるはずなんですよ」

「まるで双子だな」


 グウェイは何気なく言ったのだが、キリウは驚いた顔で彼をみつめた。


「やはり、そう思いますか」


 キリウの言葉に思い当たるふしのないグウェイは、訝しげに首を傾けた。だがキリウは構わずに続けた。


「『竜杯』が二つ一組になったのは、もともと、ひとつだったものを二つに切ったからなのです」

「ふむ。それで?」


 グウェイにはまだわからない。キリウは少し椅子を寄せてから、いっそう声を低くして説明を加えた。


「天竜はもともと一人で生まれてきたのに、生まれてから二人に分けられた――似ていませんか? ぼくは、もうひとつの竜杯を持っているのは賢者カンティヌス、もしくはマ・アーリンの転生者だと思うのです」


 グウェイは目を細めて、青年キリウのきらきらした瞳を見つめた。彼はまだ誰も気づいていないような秘密について、何かを知っているようだ。


「なぜ?」

「天竜の転生者である公子殿下は、これを最初にお見せしたとき、驚いて『半分になってる』と仰いました。ご存じなかったのです。つまり、以前に転生されたときには一つであり、その後二つに分断されたのですよ。どうしてだと思います?」

「想像もつかんな」

「たぶん――守るためだと思うのです」


 いつの間にか、キリウの膝の上では火鼠がまるくなって眠っていた。おなかの上の毛だけが、呼吸にあわせてほんの少し揺れ動いている。


「こんなことができるのは、賢者かマ・アーリンのどちらかしか有り得ません。ゲルブルの一族に破壊されたのなら粉々になるはずですし、断面があまりにも鮮やか過ぎる」


 キリウはもう一度襟元に手を入れ、袋から竜杯の口を取り出して見せた。確かに、すっぱりときれいな水平状に切られているようだ。グウェイはそれを眺めながら、もとの形を想像しようと試みた。


 すると、キリウは机のほうに手を伸ばし、引き出しを開けて手鏡を取り出した。そして飾りのない鏡を掌の上に水平に乗せ、その上に竜杯をうつぶせに置いた。


「元はこんな形だったのですよ」


 そこに現れたのは、中心が球状で上下に円盤のついた、どこか見覚えのある形だった。グウェイは後頭部を掻きながら思い出そうとした。これに似たものを、自分はいったいどこで見たのだろう?


「これに皮をかぶせて紐をかけると、ファランの楽器によく似たものになります」

「ああ」


 ファランは風の国だけあって、独特の音楽が発達している。かつてマーサリア(国際競技大会)の開会式で、ファランの演奏者が持っていた太鼓がこれにそっくりだった。ただし、大きさはもっとある。彼らは他国の太鼓と違って、撥を使わず素手で太鼓を打つのだが、その太鼓は、両面に張った皮を鋲ではなく紐で留めるのだ。


「ぼくは、マ・アーリンの転生者はたぶんファランにいると思うのです」


 キリウは頬を上気させ、熱っぽいまなざしでグウェイを見た。グウェイには、彼の瞳が一瞬虹色に光ったように見え、なにか異様な気配を感じて目を逸らした。それに気づいたキリウは、はっとして目を伏せ、「すみません」とつぶやいた。


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