第十三章 質実剛健(1)
第十三章 質実剛健
天井まで伸びた縦長の窓に、蒼白い月が出ていた。かなり夜も更けている。月は影を伸ばして、古びた木の床に二人の人物を向かい合わせに映し出していた。王弟シド・ヴァーン大公の従者キリウ・リンドと、幼い公子ディーンの守護騎士ル・グウェイである。
キリウの口から、騎士隊長スレイブズにまつわる一連の話を聞いたグウェイは、最後まで黙って聞き終わってから静かに尋ねた。
「それは殿下から聞いた話か。貴殿は、いつからこの城に? どうして現在の任務をまかされることになったのだ」
殿下というのは無論、城主シド・ヴァーンのことである。キリウは扁桃に似た形の眼をかるく伏せ、長い睫毛を瞬かせながら即座に答えた。
「出会ったのは五年前、ぼくがまだ学生だった頃です。と言ってもこっちが大公殿下の姿をお見かけしただけで、殿下は憶えておられないでしょう。ここへ赴任することになったのは三年前。魔道士学校の卒業と同時ですね」
「ふむ」
グウェイは口元に手を当てて頬杖をつきながら考えた。キリウの言葉はほぼ全て信頼に足る、と彼は思った。彼が自分を騙すことには何のメリットもない。こうした事情を先に知らせておく必要があるというのは、なにもグウェイたちに対しての親切ではない。おそらくそれは、シュブラウス城におけるスレイブズの危機的状況を意味している。
話を聞いた限りでは、下手をすればこの城の騎士たちの結束が一度に崩壊しかねない。だが、それを如何ともしがたいシドの気持ちもわかる。若きスレイブズが道を誤るか誤らずに済むか、まさに今が瀬戸際なのだ。キリウは俯いたまま話を続けた。
「魔道士学校に通いながら、ぼくはひそかに剣の修業をしていました。あなたを信頼してお話ししますが、ぼくには或るひとつの目標があって――つまり、その、探しているのです」
「なにを?」
「……マ・アーリンの転生者を」
グウェイはしばし口を噤んで、キリウの眼をじっと見た。恥ずかしそうにはしているものの、どうやら本気のようだ。
マ・アーリンというのは千年前に生きた伝説の大魔導師で、人間に魔法を伝えたということになっている。本当かどうかはわからないが、実在したのは確かなようだ。そういえば、ディーンがキリエに同じようなことを言っていた気がする。お喋りの一端かと思ってあまり注意深く聞いてはいなかったのだが。
「その転生者とやらがどこにいるのかは、ディーン様でもわからないのか?」
「はい。とりあえずぼくでないのは確かです」
ふっとグウェイは笑みを洩らした。キリエが「自分じゃない」と残念がっていたのを思い出したのである。
「自分かもしれないと思っていた?」
「ちょっとだけ」
キリウは悪びれずに笑った。美青年だが、さほど自己愛が強いわけではないようだ。
そのときグウェイの足もとを、何か――赤い小さなものが素早く走り抜けた。思わずグウェイは激しく瞬きをした。赤いものは、キリウ・リンドの長い足を駆け上って彼の左手の甲にちょこんと乗っかった。




