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竜の剣  作者: 高倉麻耶
第一部 第十二章
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第十二章 騎士の心(5)

 城主シド・ヴァーンの知らないうちに、騎士たちは自分たちの中で上下関係を作り上げていた。その頂点に立っていたのはシモン・ヴァーレンという文人貴族出身の男で、ヴァーレン家は名門中の名門・ヴェルレウス家の親族である。先祖を辿れば、ルーン王国の初代国王サウルの血を引いていることになる。


 ヴァーレンはその血を誇りにしており、家は富裕貴族、本人も子爵の位を持っている。そんな彼が、奴隷の血を引くスレイブズ家の人間を優遇するはずがなかった。のみならず、セシウスは陰湿な駆け引きを嫌う性格を持っていた。これが災いして、彼はますます孤独を深めていった。


 結果として、セシウスはヴァーレン派の騎士たちの嫌がらせによって逆上し、「主君の前で侮辱された」という事由により決闘を申し込むという事件を起こした。


 セシウスは相手に一太刀浴びせただけで降参させた。長らく押し込められていた怒りが爆発し、彼の気迫は凄まじいものになっていた。以来、セシウスは彼に対立する者がいれば必ず決闘を申し込むようになった。そしてもちろん、決闘においてセシウスにかなう者はいなかった。


 一年足らずで、セシウスはシュブラウス城の騎士たちを力で従えるようになり、やがてヴァーレンを退けて騎士隊長の任に就いた。その頃になると、さすがにセシウスの態度は誰しも鼻につくようになった。


 彼の悪評は、そのうちシド・ヴァーンの耳にも入った。


「どうしたものだろうか」


 困り果てて、シドはスクルド夫人に相談した。臨月の近いスクルドは大きく膨らんだ腹を撫でながら、少し考えてからこう答えた。


「彼はきっと孤独なのです。とてもいい子でしたもの、何事もなくて、そんなふうになるはずがありませんわ」

「それは、わたしもそう思う。しかし、わたしが彼を叱責すれば、彼は自分を責めて萎縮するだろう。そうなるとますます彼を孤独にするのではないか」


 スクルドは夫の眼をじっと見つめながら、しばらく考えた。それから、ふと明るい顔になった。


「そうそう、あの子と一緒に剣技を学んだ者がいるはずですわ。探して呼び寄せたらどうかしら」

「それはいい考えだ」


 シドは笑顔になって、夫人の肩を撫でた。彼はたいていのことは自力で解決するのだが、本当に困った問題が起きると妻に相談するのである。夫からこうした相談を受けると、賢妻スクルドは実に見事な解決手段を提示するのだった。


 こうして、シドはセシウスの旧友のひとりグレイアス・サンブルディと出会った。サンブルディ家はヴルディ家の親戚で、「青の森」の南側を領地としている。サンブルディ家の若き三男グレイアスは、条剣の名手であるにもかかわらず、未だ仕えるべき主君を見出していなかった。彼は毎日を遊びに費やしていた。


 シドは自ら「青の森」に出向き、身分を隠してグレイアスに会った。彼がいかほどの人物かを見極めるためである。そして、旅する放浪剣士のふりをしたシドは、グレイアスに条剣での試合を申し込んでみた。


「いやだね。決闘なんて受ける義理ないよ。腕試しに付き合わされるなんて御免だ」


 当初、グレイアスは乗り気ではなかった。しかし遊ぶ金に困っていた彼は、シドが大金を賭けると言うと喜んで試合に応じた。もちろん真剣ではなく、先端に緩衝材のついた闘技用の模擬剣である。


 試合が始まった。数年を無駄に遊んでブランクがあるといっても、グレイアスは本当に強かった。当然ながら、彼にとってシドも驚くべき強敵だった。両者の戦いは白熱し、かなり長引いた。


 戦っているうちに、シドはこの青年が本当に武術を愛しているということをその肌で感じ取った。ただの負けず嫌いや天賦の才によってではなく、グレイアスは剣技の面白さを追究しながら実力を上げていったのだ。


 最終的には、シドの経験が彼に勝った。グレイアスは条剣を跳ね飛ばされ、「参った」と両手を挙げた。


「驚いたな。こんな辺境に、あんたみたいな強い剣士がいるなんて。世の中ってヤツは広いもんだ――あんた、いったい何者なんだい?」

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