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竜の剣  作者: 高倉麻耶
第一部 第二章
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第二章 宿命(4)

 大きな石で組まれた地下の階段では、下のほうの闇から、底冷えのする風が吹き上げてくる。見上げると、はるか頭上に、ぽっかりと丸い星空がのぞいていた。この階段は、どうやら外にあるらしい。城の壁に挟まれた通路なのである。しかしこの冷たい風は、いったいどこから吹いてくるのか?


 シドは、その階段の最も深いところまで降りた。心なしか空気が重い。この城は湖で囲まれている。この高さでは、既に水中のはずなのだが。

 階段の終わったところに立つと、大人の身長くらいの幅がある、深い井戸のような黒い穴が広がっていた。風は、どうやらこの穴の中から吹いてくるようだ。


「足元に気をつけなさい」


 そう言いながら、シドは古びた木の扉を開き、その中へ二人を先に導いた。中に入ると、蒼い光が足もとに灯った。火ではない。魔法陣の放つ光である。


 そこは穹窿型の天井を持つ石室だった。そこそこ広い。石で組まれたその穴倉の床には、蒼い光の線によって、大きな円が描かれている。魔法陣はその中心に、明るく光り輝いていた。


 シドは自分の首に提げていた首飾りを、ひとつ外した。それは、彼が今日まで肌身離さず持ち歩いていたものだった。Αの字に似た形をしたその奇妙な首飾りは、魔法陣に呼応するように青白い光を放っている。


 ディーンとカイト、二人の耳には、遠い空の彼方から響いてくるような、不思議な音が聴こえ初めていた。彼らにはその音の正体がわかっている。これは、遙か北方――賢者カンティヌスのいる北の塔から届く、遠隔魔法の影響音なのだ。


 シドは光る円陣の中心に立ち、まず、ディーンを呼び寄せた。


「ディーン、ここへ」


 肩まで伸びたまっすぐな黒髪を揺らし、ディーンは前に進み出た。魔法陣を踏む彼の体を、青いきらきらした光が包み込む。まるで、彼の体が極小の星を無数にっているようにみえる。


 厳かな表情で、シドは賢者カンティヌスから教えられたとおりに、その首飾りをディーンの首にかけた。そして、古い時代の魔法の言葉で、王家に伝わる神聖呪文を唱えた。


「小さきものは、大いなるものの形をたどり、繰り返す。天の竜は、火の竜と地の竜に分かたれた。火の竜は風の竜を生み、地の竜は水の竜を育てた。四つの力は妖精になった。竜の欠片は世界中に散らばった。妖精の王は竜の力を人に返す。人は竜の子だから。目覚めよ、竜の子。人の姿をそのままに、竜の力を取り戻せ。おまえの力とは何か」


 ディーンは、同じく古代呪文で「火」と答えた。すると、彼の額に刻まれていた封印が、紅蓮の炎になって燃え上がり、そのままきれいに消え去った。カイトは、その様子をただ無表情で見守っていた。


 シドはディーンの首にかけていた首飾りを外し、カイトを呼び寄せた。


「きなさい、カイト。おまえの番だ」 


 カイトはディーンと入れ替わりに、魔法陣の中心に立った。向かい合ったシドは、こんどはΩのような形をした首飾りを取り出した。そしてそれをカイトの首にかけ、先程のと同じ呪文を繰り返した。


 ところが、カイトがそれに答えようとした瞬間、足元がガクンと大きく揺らいだ。ディーンはその場に倒れこんだ。


「あっ」


 それを見たカイトが小さく声を上げた瞬間、彼の額の封印は――強い虹色の光を放った。

思わず、シドは目を塞いだ。瞼の裏に強烈な残像が残る。


 大地はそのまま、ぐらぐらと揺れ続けた。目をおさえたまま、シドは片膝をつかねばならなかった。


「カイト! カイト!」


 揺れがおさまり、光も静まった。シド・ヴァーンが目を開くと、ディーンが気を失ったカイトを抱きかかえながら、必死に彼の名を叫んでいた。カイトはすぐに目を覚ましたが、その瞳は黒ではなく、真っ赤になっていた。瞳孔の形も、竜族のものになっている。口を開くと、鋭く伸びた牙がのぞいた。


「失敗したのか」


 シドは真っ青になって、ディーンに問いただした。


「そうです」


 ディーンは泣きながらカイトの頭を抱き、震える手で彼の頬を撫でて答えた。


「魂はなんとか呼び戻しました。でもカイトの体は……半ば、人の形を喪ってしまった」


 その地震は、どこか地中の奥深い場所で、禁じられた邪法を使う者が――彼らを妨害するために引き起こしたものだった。だが、シド・ヴァーンをはじめ、ディーンもカイトもそれを知らない。彼らはそれを、ただ偶然に起きた本当の地震だと思っていた。



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