第十一章 シュブラウス城の騎士たち(7)
第二の形式は槍試合である。これは走竜に乗り長槍で一騎打ちするという凄まじい荒試合で、怪我人はもちろんのこと死者も数多く出る。そのため、この試合に出るのはごく一部の選ばれた者だけである。無論、王の許可なくしてこれを行うことはできない。シュブラウス城の中には槍試合ができるほどの広場は無いので、この形式での試合は有り得ない。
もうひとつ、決闘形式がある。これは騎士と騎士が誇りをかけて戦うもので、唯一禁じられていない私闘である。たとえばある女性をめぐって、二人の男が戦うというようなことだ。もちろん私闘とはいえ公証人を必要とし、少なくとも三人の人物がそれを最初から最後まで見届けなくてはならず、相手に重傷を負わせた場合には敗北と見做される。どんな場合でも、騎士は騎士として誇り高くあらねばならないのだ。
(決闘か……)
ギレンはこの「決闘」というものがあまり好きではなかった。そもそも、誰かと競争するとか奪い合うといったことが嫌いで、今までろくに試合にも出なかったのだ。しかし、今回ばかりは避けるわけにもいかないようである。おそらく、スレイブズはこの「決闘」形式での試合を求めてくるだろう。
(でも――誰と?)
それはまだわからない。相手がグウェイでないことを祈るばかりだ。
***
一方、ディーンとカイトは病床についたシルヴィのもとへ駆け込み、彼女の苦しみようを見て痛ましいほど悲しんだ。ケベレウス医師はありとあらゆる手段を尽くしてシルヴィの熱をとろうとしたが、ほぼすべて徒労に終わっている。ディーンは彼女の額にそっと掌を乗せ、焦燥の色を隠せないケベレウスに尋ねた。
「熱が出たのはいつ?」
「昨夜遅くです。どうもこれはただの熱ではないようで」
「……」
ディーンは黙って目を閉じた。彼の掌の先から、真珠のような白い光が滲み出ている。ケベレウスは、上級魔法の使用時特有の硝子をすり合わせたような高音を微かに聴いた。しかし呪文を唱えていた様子はない。指先からこんな光を出す魔法の存在も、聞いたことがない。
「それは……癒しの魔法ですか?」
「シッ」
カイトが医師に沈黙を求めた。ディーンはかなりの集中を要する魔法を使用しているのである。
やがて、彼は花がほころぶような微笑を浮かべて目を開いた。それまで苦しげにしていたシルヴィが、急に静かな寝息をたて始めた。楽になったようだ。
「よかった。ゲルブルの呪いじゃなかった」
そばで見ていた母スクルドは、みるみるうちに顔色の戻ってゆくシルヴィを見て、ほっと息をついた。彼女にとってはディーンが不思議な魔法を使うことより、娘の命が第一の問題だったのである。
カイトは、小さな袋を取り出してシルヴィの枕元に置いた。ディーンはケベレウスに処方を指示してから養母スクルドに言った。
「明日まで眠れば目を覚ますでしょう。もう心配要りませんよ、母上」
スクルドは震えながらディーンの手をとり、何度も礼を述べた。出る幕のなかったケベレウスは、深く皺の刻まれた顔になんともいえない表情を浮かべ、ディーンとカイトは互いの顔を見合わせた。
双子は医務室を出たあと、城の最上階にある展望室に向かった。そして、沈みかかる夕陽を眺めながら、二人で身を寄せ合って膝を抱えた。
「カイト。疲れたね」
「うん」
「……」
ディーンは膝の上に顔を伏せて、肩を震わせた。カイトはそっと背中に手を添え、ディーンの小さな頭を抱いた。ディーンは両目からぼろぼろと大粒の涙をこぼしていた。
「シルヴィ……シルヴィは、死ぬ運命だったんだ」
「ディーン」
カイトも目にいっぱい涙を溜めていた。
「ま、間違ってなんかない。だ、だ、だっておれ、シルヴィにお土産渡したかったもの」
「でも」
ディーンは顔を上げた。散った涙に、夕焼けの色が反射した。
「人間の運命を二つも大きく変えてしまった。もう、何が起こるかわからない」
「だいじょうぶ。お、おれが全部引き受ける」
カイトの胸で、ディーンは声をあげて泣いた。この世界に彼らの嘆きの理由を知る者は、誰もいない。




