第十一章 シュブラウス城の騎士たち(6)
「ギル、どうしてお兄様の部屋にいたの?」
鏡に向かって髪を梳かしながら、珍しくキリエはとげとげしい口調で尋ねた。
「騎士試合の話をしていたのです。いけませんか」
荷解きをしながら、何気なくギレンは答えた。この程度のことならキリエに話しても大丈夫だろう。しかし、キリエは訝しげに目を細めた。
「……ほんとうに?」
「本当です」
実際、嘘はついていない。けれどもキリエに拗ねた表情で睨まれると、根が正直者のギレンはドキドキしてしまう。
「……お兄様は、だめよ。いくらギルでも」
「えっ」
途端にギレンは耳まで真っ赤になった。そういう話になるとは思わなかったのだ。
「なに、その反応! ギルったら、見る目あるんだから!」
「キリエ、誤解です。わたし、そんなつもりは……」
「うーん、でもギルならいいかなぁ」
「違いますってば!」
色事に疎い真面目なギレンは、キリエにからかわれていることにも全く気づかない。ただ、いくら鈍い彼女でも、この兄妹には何か特別の強い絆があることは、何となく感じ取れた。そして、その絆は彼らの生い立ちに深く関わるものであることも、無言のうちに推し量ることができた。
(それにしても、当初はあんなに歓迎してくれていたと感じたのに――あれは、表面上だけのことだったのだろうか?)
漆黒の鎧を拭いて泥を落としながら、ギレンはカイトに「騎士の誓い」を立てた直後の宴を思い出していた。
騎士隊長スレイブズは、グウェイと同じく寡黙で無表情な騎士らしい騎士だった。おそらく自分と同じぐらいの年頃で、体つきはしっかりしており「黒の森の獅子」という綽名に相応しく、勇猛果敢な堂々とした気品を漂わせていた。
目立つ騎士はもうひとり、サンブルディという男だ。細面のうら若い美青年だが、ギレンは王城の御前試合で一度彼を見かけたことがあった。「黄金の鳥」という異名をとり、条剣の試合で好成績をおさめていたのを憶えている。
騎士試合というものには、幾つかの代表的な形式がある。
最も盛大なものは四年に一度の国王が主催する御前試合で、剣の種類ごとに一対一で行われる点数制の競技である。これに優勝すれば銀の栄冠が与えられ、ルーン国内での評価はゆるぎないものになる。グウェイはこの銀冠を持っている。
ちなみに一度優勝した者は、もう参加できない規則になっている。というのは、優勝者には格別の厚待遇が用意されているからだ。ルーンに於いて「銀冠を得る」という言葉は、すなわち「最高職に就く」という意味になっているほどである。文字通り、騎竜百人隊の隊長は戦士職の最高位にあり、その上にはもはや将軍職しかない。百人隊が組織される前、グウェイは将軍直下の上級大将だった。
グウェイが抜けたあと百人隊の隊長となったのは、レンドルという名の優秀な走竜騎士で、彼はグウェイが優勝したときの試合で二位を勝ち得た男だった。二人は実力的にはほぼ互角で、傍目に見ていても見事な、どちらが勝ってもおかしくないほどの白熱した試合をみせた。それは近年まれに見る名勝負として、騎士たちの記憶にまぶしく残っている。当時ギレンも、その試合を手に汗握って観戦し、二人の雄姿を目に焼き付けている。




