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竜の剣  作者: 高倉麻耶
第一部 第十一章
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第十一章 シュブラウス城の騎士たち(3)

 人々はみな、カイトの足の速さに目を瞠った。彼は頭を低くして、滑るように跳ね橋の上を渡った。橋はほとんど揺れなかった。ただ、一陣の風が起きてキリウとキリエの服や髪、ギレンのマントをばたばたと騒がせた。


「きゃっ! えっ、何? どうしたの?」


 双子の異様な慌てぶりに戸惑ったキリエは、グウェイとギレンの顔を交互に見た。だが二人とも黙っていた。ギレンはセエレ大橋で起きた不吉な出来事の一部始終を思い出し、胸に広がる不安を抑えきれずに、眉根を寄せて主の姿を見送った。


 竜騎士グウェイとギレンは、二頭の輝甲竜を岸辺に待機させたまま跳ね橋を歩いて渡った。輝甲竜がその重量で踏めば、この見事な橋が壊れてしまう。既に専用厩舎が城の中に用意してあり、輝甲竜アギスとアスタルスは橋を戻してから、みずからの翼で城内の中庭にある厩舎へ降りることになっている。跳ね橋を城塞の外壁に格納したあとでないと、彼らの翼の風圧だけでも傷んでしまうおそれがあるのだ。


「歓迎します」


 スクルド夫人が、みずからキリエに握手を求めた。双子の慌てた様子に気を呑まれていたキリエだが、王弟夫妻には如才ない挨拶を返した。


「さすがは、リンドの妹だな。若いのにしっかりしている」


 国中に名だたる明君のヴァーン公に褒められて、キリエはすっかり舞い上がった。彼女の中で、シドの言葉は何度も反芻された。感激のあまり、次にキリウが言った、


「いえ、こいつはおっちょこちょいなんです。すぐに浮かれて、何もないところで転んだりしますから」


という声は耳に入らなかったようだ。そして、言われた端から足を滑らせて尻餅をつき、失笑を買って真っ赤になった。


 茶色の皮袋に包んだ荷物を抱えて長い廊下を歩きながら、キリエはしつこく憤慨していた。


「もう、もう! お兄様のせいなんだから」

「おまえがボンヤリしてるからだろ」


 キリエとギレンにあてがわれたのは、キリウがひとりで借りている部屋の隣にある四人用の相部屋である。二人で使うには十分な広さがあった。キリウの部屋には、グウェイが一緒に入ることになっている。この配置を考えたのはキリウで、みずからこの部屋割りを主君のシドに提言した。緊急事態に対応するには都合のよい配置だが、理由はそれだけではない。


「転んだのはわたしだけど、笑われたのはあのときお兄様が変な冗談を言ったからよ」

「はいはい、悪かったよ。ほら、着いたぞ」


 呆れ顔で肩をすくめながら、キリウがドアを開けてやる。


「恐れ入ります」


 ギレンが笑顔でかわりに鉄扉を押さえた。意外に重い。壁もかなりの厚さがある。攻め込まれた場合のことを考えたつくりになっているのだ。しかし、キリウは軽々とこの扉を開いていた。外見はひ弱そうに見えるが、意外に腕力があるようだ。人は見かけによらないものだと、ギレンは妙に感心した。


 妹が部屋の中に入るのを見届けたキリウは、続いて入ろうとしたギレンの肩を軽く叩いた。何か話したいことがあるようだ。いったん中に入って荷物をドアのすぐそばに置くと、ギレンは部屋を出て重い扉を静かに閉めた。


「ちょっと、いいですか」


 キリウは人目を気にしながら自分の部屋のドアを開けた。中に入ると、荷物をそばに置いたグウェイがスツールに腰掛けながら待っていた。キリウはドアの外を窺って人のいないことを確かめてから、ギレンに椅子をすすめ、自分はベッドに腰掛けた。二階建ての木製ベッドは、上段がグウェイにあてがわれたようである。


「お二人に話しておきたいことがあります」


 グウェイとギレンは、同時に黙って頷いた。


「まず、この城での騎士たちの慣わしについてですが――すみません、お二人は魔法のかかった鎧を着けていらっしゃいますね?」

「はい」


 ギレンは素直に認めた。ふつう、鎧に魔法が掛けられていても外観からは見分けがつかないものだが、ごくたまに魔法の力を視認できる能力を持つ者がいる。飛びぬけた魔法の才能を持つキリエの実兄であるからには、やはりキリウも只者ではないのだろう。



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