第十一章 シュブラウス城の騎士たち(1)
第十一章 シュブラウス城の騎士たち
ルーン王国の魔道士たちの最高位にあるソリス・メリル枢機卿と、王立図書館を管理しているマルス・メリル館長。この二人の兄弟は、代表的な文人貴族・メリル家に生まれた、正妻の実子である。
グウェイ家、スレイブズ家、シェルメル家などは武人貴族として有名だが、それに対しメリル家、ヴェルレウス家、モーリス家などは文人貴族の筆頭と呼ばれる。中でもメリル家は、マ・アーリンの血をひく一族といわれ、代々、優秀な魔道士を生み出してきた。
そんなソリス・メリルの持っていた、見事な銀細工の大円鏡。直径が一.五ファルシアほどもある。古代の円鏡で、これほど大きなものはまず見当たらない。文化遺産としても非常に価値が高い、貴重なものだ。
その鏡はいま、魔道士キリエ・リンドが持っている。わずか十六歳の少女が持つにしては、身分不相応な品である。しかし、これは彼女が持つべきものと言えなくもない。
当初ディーンは、その鏡を竜騎士ル・グウェイに持たせようと考えていた。しかしキリエと出会ったことで、考えが変わった。彼女の兄キリウ・リンドは、ディーンとカイトがよく知っている、ヴァーン公家お付の従者なのである。
ディーンがキリエに持たせたその鏡は、大魔導師マ・アーリンが妖精たちと一緒に造った、「竜具」のひとつなのだ。そして、キリウはもうひとつの「竜具」を持っている。
「竜杯?」
「そう、『竜杯』。こんな形をしていて、二つで一組なんだ」
二人は、のっそりとゆるやかに歩く輝甲竜アスタルスの騎上で、グウェイの大きな体に護られながら、無邪気に仲良く語らっている。一見、子ども同士が他愛ない会話を交わしているように見えるが、その内容は「他愛ない」とは言いがたい。
ディーンは火の輪の魔法で、竜杯のかたちをキリエに示してみせた。それは、長い柄のついたグラスのような形状をしている。二つをぴったり合わせると、中心がちょうど球状になる。
「でもわたし、お兄様がそんなもの持ってるなんて知らなかったわ」
「うん、キリウはこれをお母さんから秘密で受け継いだの。で、片方しか持っていないんだよ」
「もう片方はどこにあるの?」
「わからない。もうひとつが見つからないと、竜具としては使えないんだけどね」
ディーンにもわからないことがあるんだ、とキリエは不思議に思った。彼女にとって、天竜は全知全能の神的存在である。その割になんとなく気さくに話してしまうのは、ディーンがまるきり普通の少年の姿をしているのと、彼の性格が陽気で人懐こいせいだろう。
「最初に造ったのは『竜剣』。『竜鏡』は、二番目に造った竜具なの。そして三番目には『竜玉』。最後の『竜杯』と合わせて、アーリンは全部で四種の竜具を造ったんだ」
説明しながら、ディーンは炎の中に次々と、ひとつひとつ道具の姿を浮かび上がらせた。キリエはディーンの話に頷きつつ、琥珀によく似た透明な瞳で、食い入るようにそれをみつめている。
「じゃあ、伝説の『竜の剣』っていうのは……」
「うん、人間がゲルブルに対抗できるように、天竜の力を呼び出すための道具だよ。だから、魔法の剣なんだ」
「なるほど。それが『世界を統べる力』なわけね」
キリエは腕を組んで、うーんと唸った。
このことは、きっとまだソリス・メリルも知らない秘密だ。世界の秘密を自分だけが知るなんて、すごくドキドキする。
(ディーン樣についてきて正解だった)
と、彼女は得意げに小鼻を膨らませた。




