表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の剣  作者: 高倉麻耶
第一部 第二章
8/139

第二章 宿命(3)

 この予言は、様々に形を変えて各地の伝承に残っている。ある地方では「竜の剣」と呼ばれ、またある地方では「マ・アーリンの剣」と呼ばれ、あるいは「魔剣」と呼ばれている。しかしその存在を信じる者など、誰もいない。


 予言とともに、竜の転生者の伝説がある。世界創世の神である天の竜が、人間に姿を変えて現れるというものである。彼は竜の剣を手にし、天空の城に住む悪魔を倒すのである。そんな話を本気で信じる者などいない。子どもに善悪を教え、あるいは寝かしつけるための、単なるおとぎ話だと思われていた。


 だが、シド・ヴァーンは言った。


「そうだ。シルヴィ、その通りだ。このディーンとカイトこそ、マ・アーリンの遺した魔剣、『竜の剣』の継承者なのだ」


 召使たちはどよめいた。シドの愛する妻スクルドは、真っ青な顔で姿勢を崩さなかった。無邪気なシルヴィは、そんな母にすがりついて笑いながら言った。


「すてき! ねぇ、ディーンとカイトが世界を救うのよ!」

「ちっとも素敵じゃないわ」


 いつもと違う母の態度に、シルヴィは戸惑った。シドは暗い表情で、まだ幼い娘に教え諭した。


「シルヴィ、世界を救うというのは、この上なく重い宿命なのだ。特殊な体を持ち、特殊な能力を持って生まれたということは、二人が平穏無事な人生を送り、安全に暮らすことを妨げてしまう。ディーンとカイトには、今後、絶え間なく様々な危難が降りかかるだろう」


 彼はその続きを、そのまま息子たちに語り始めた。


「だから、おまえたちは、これから片時も離れてはならぬ。何があっても必ず互いを助け合い、二人でともに生きるのだ」


 ディーンとカイトは、こくりと頷いた。それを見て、シドもまた穏やかな表情で頷いた。


「その額に刻まれた印が何であるか。ディーン、わかるか」

「はい」


 皆の注目を浴びながら、静かな声でディーンは答えた。


「これは、僕らの力を封じるものです」

「うむ」


 召使たちは互いに顔を見合わせ、それから静まり返ってディーンを見守った。


「父上――これを、今から消すのですね?」

「そうだ」


 黙ったまま、シドはディーンとカイトだけを手招きした。そして、壁の煉瓦をひとつゴトリと押し、隠し扉を開いた。召使たちは驚いた。長い間この城に暮らしていながら、そんなところに扉があったとは、ついぞ誰も知らなかったのである。


「おまえたち」


 シドはランタンを手に振り向いて、妻や召使たちに言った。


「この扉の位置を、よく憶えておきなさい。もしも何かあったときには、ここから地下を通り、城の外へ逃げるのだ」


 部屋に残された者たちは、身を寄せ合い、手を握り合って「閣下を信じましょう」とつぶやいた。


 シド・ヴァーンは、石の階段を降りながら二人に言った。


「もう判っておるだろうが、この地にも悪しき力が忍び寄りつつある」

「はい」


 カイトに肩を支えられながら、ディーンが答えた。シドは深く溜息を吐いた。


「わたしも、できる限りのことはする。なんとか、この城を敵の手には渡さぬように」

「……はい」


 シドの言う「敵」は、シルヴェウス王のことではない。王の心の弱い部分につけこんで操っている、アゼルという魔道士のことでもない。その「敵」は、もっとずっと強大で、邪悪な存在なのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ