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竜の剣  作者: 高倉麻耶
第一部 第十章
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第十章 セエレ大橋にて(1)

第十章 セエレ大橋にて


 二頭の輝甲竜が、その雄姿を白日のもとに晒している。冬枯れの木立が並ぶ旧道をまばらに往く人々は、一人残らず目を瞠る。竜戦車よりも大きな輝甲竜の体躯と、その眼光の鋭いこと、角や爪を備えた姿形の恐ろしさに。


 火竜の子孫である輝甲竜は、同じく巨大な体躯を持つ脚竜と違って、翼が退化していない。実をいうと、彼らは飛竜よりも迅く空を飛ぶことができ、地上よりも空中の移動のほうが得意なのだ。しかしグウェイとギレンは、戦闘時でも輝甲竜に飛行命令を出すことは滅多にない。否――「ない」というより、「できない」といったほうがよいかもしれない。


 普段は丁寧に折り畳まれ、鎧のようにぴったりと躰に纏わせている彼らの翼は、広げれば一枚が一ミディアラもある。両翼を羽ばたかせると、幅が二ミディアラ以上になる彼らが起こす風は、実に凄まじいものだ。もしも市街地で飛び立ったとしたら、小屋や屋台の類は吹き飛び、煽られた人々は重軽傷を負うことになるだろう。輝甲竜を飛行させるのは、危険極まりない行為なのである。


 地上では、輝甲竜は脚竜ほどの速度を出すことはできない。神殿の柱にも似た四本の太い脚は、走るのがあまり得意ではないのだ。それでも本気で走れば、走竜の疾走に勝る。


 しかし、いくらシュブラウス城が遠いとはいえ、国内の移動で乱暴に走らせる必要もない。竜車でも二日程度の距離である。だから、二頭の輝甲竜とそれを囲んだ兵士たちは、平和な様子でゆっくりと静かに歩を進めている。


 このときディーンたちの一行は、シリウ河の上流にあるセレンディウス河畔まで、シェルメル侯の手厚い護衛を受けていた。武人公爵であるルース・シェルメルは、王家の認可を受けた私兵を持つことを許されている。最強の竜騎士二人に護衛というのもおかしな話だが、これはシェルメル侯の好意である。無下に断るのも失礼だ。


 セレンディウスには、セエレ大橋という世界一の大吊り橋が架かっている。セエレもセレンディウスも、かつて名君として知られたルーン国王の名前で、この橋は、友好国である西方の大国ミディアとの交易のために架けられたものだ。誰が設計したのかは不明だが、架橋から百年余り経った今も、見事な架橋技術で大量の交通を支えている。よほどの技術者だったのだろう。


 もう少し寒い時期ならどこでも氷の上を渡れるが、今はもう、春もすぐそこまで近づいた雪解けの季節である。ヴァーン領「黒の森」へ輝甲竜が歩いてゆくには、セエレ大橋以外に渡れる場所はない。


 セレンディウス河畔は、二本の大河合流地の西側にある。ここは昔、ひどく水害の多い地域だったという。五十年かけて大規模な治水工事を行い、沿岸に巨大な堤防を築いて氾濫を防いだのが、十代前のルーン国王・セレンディウスだった。今から三百年近く前のことである。


 それ以来、西側の上流河川とその周辺地域は、「セレンディア」と呼ばれるようになった。現在は、ミディアとの交易を支える宿場町や、市場、卸問屋などが立ち並び、商業都市として賑わいを見せている。


 ディーンとカイトは輝甲竜の騎上から、華やかな商店街の様子を興味深げに眺めていた。二人とも、庶民のこうした生活の様子は、初めて目にするものらしい。シュブラウス城からルベイに来るときは違うルートを通ってきたし、ルベイでは、城下町をつぶさに観察する機会はなかった。


「ギル、あれ何」


 ギレンの前に座ったカイトが嬉しそうに指差した。少しずつだが、カイトは言葉を話すことに慣れてきたようだ。以前より声が滑らかになり、吃りも少なくなっている。それに、たどたどしくはあるが、よく話しかけてくれるようになった。


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