表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の剣  作者: 高倉麻耶
第一部 第九章
73/139

第九章 帰還(7)

 翌朝、メリル枢機卿はディーンの顔をみつめながら茫然としていた。


「殿下。いま……なんと仰いました?」

「だめですか? キリエ・リンド魔道官を、シュブラウス城に連れて帰りたいのですが」

「ううむ」


 満面の笑みを浮かべてディーンの横に立つキリエ。その表情には、微塵の迷いもない。メリル卿は帽子をとって頭を掻きながら、「困りましたな」とつぶやいた。


「行く行くは、三官を勤めてもらおうかと考えていた娘です。むむ、手元に置いて育てたかったが……しかし、殿下が仰るのでは仕方がない……」

「大丈夫ですよ、所長! わたし、ディーン様に付きっ切りで勉強してきますから」


 キリエは嬉しくて仕方がないといった様子で、はしゃぎながら言った。「三官」というのは、王室魔道官の最高位にある三魔道官のことである。メリルの言葉は、「キリエには魔道士としての最高位に就くだけの実力がある」ということを示していた。


「彼は、残してくださるのでしょうな?」


 メリル卿は、キリエの横に並んだシグヌス・アルウェンのほうを手で示しながら、諦めたように言った。シグヌスは黙ったまま、困ったような微笑を浮かべている。ディーンは明朗な声で答えた。


「はい、残念ですけど……二人一緒に連れていくと、メリルさんが困ることでしょうし……」

「やれやれ」


 ほっと溜め息を吐いて、メリル卿は金の帽子を被りなおした。ディーンたちの見送りのために、朝から枢機卿の盛装を着用しているのだ。


「仕方ない。形だけになりますが、御父上への紹介状を書かせていただきますわい」

「お願いします」


 言い終わるが早いか、メリル卿は呪文を唱えて空中に紙とペンを動かした。片眼鏡を押さえながら、あっというまに手紙の封まで済ませてしまう。一瞬の早業に、シグヌスとキリエはぽかんと口をあけていた。メリルはその封書をキリエの目の前に浮かせながら言った。


「何を驚いておる。ただの浮遊呪文ではないか」

「いえ……さすが、所長ですね」

「ふん。この儂を小ばかにしておいて、よく言うわい」


 どうやらメリル卿は、キリエをとられてしまうのが余程悔しいらしい。シグヌスは肩を竦めて笑っている。空中に浮かんだ紹介状を、頬を赤らめたキリエが両手でそっと受け取った。


***


「気をつけてね」


 魔道騎士を伴った王妃セラスが、威儀を正した盛装で見送りに来ていた。このごろ彼女には、王妃というよりも「女王」に近い風格が備わっている。そのかんばせの輝きは、思わず目を細めてしまうほどである。シルヴェウス王は来ていない。この時間帯、彼はまだ寝床の中にいる。


 セラスは、ディーンに書簡を手渡した。

 それは、見事な細工の施された銀製の細長い筒で、小さな錠前がついている。そして、彼女はあでやかな微笑を浮かべながら、銀色のごく小さな鍵をカイトに手渡した。鍵は、細い鎖のついたペンダントになっている。カイトはそれを黙って首に通した。


 もちろん二人には、その書簡の中身がセラスからシド・ヴァーンに宛てた手紙だということがわかっている。祖母を亡くしてから孤独な半妖人だった彼女にとって、この双子の存在は、彼女の持つ妖精の血、そして過去のすべての苦しみを救うものだ。


 セラス王妃とヴァーン兄弟の心は、いまや遮るもののない繋がりをもって、結び付けられている。そしてそれは魔法陣作成のあいだ、彼らの「千里眼」を可能にした。ディーンとカイトは、セラスの眼を通して王城の監視を行っていたのである。今後も、三人は互いの意識を分身のようにして、魂の声を交わす。どんなに離れていても、心はずっと繋がったままになる。


「それじゃ。長い間、お世話になりました」


 ディーンとカイトは、並び立ったソリス・メリル枢機卿と王妃セラスに向かって、ぴったりと息の合った正式な礼をした。胸の前で左掌に右拳を合わせるという、この無骨な挨拶の仕方には、武をもって世界に名を知らしめたルーン王国の、古きよき時代の面影がある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ