第九章 帰還(6)
突如として夜空にあらわれた巨大な虹。ルベイの中心にある王城の最上階「天の風楼」から見ると、この魔術光の輝きが、天に五芒星を描いて交差しながら――全方向から、王城を囲んでいるのだとわかる。ここは全方向に開けた空間であり、ただ四本の太い柱でを支えているだけの吹きさらしの広場なのだ。
シルヴェウス王は、冬の終わりの強風にばたつくコートを押さえながら、早速呼び出したソリス・メリル枢機卿に、怪異現象の原因を問い質した。
「これは一体、なんとしたことだ? 怪しい魔法なのか、凶兆なのか。このような恐ろしいものは、ついぞ見たことも聞いたこともない」
メリル卿は、ごうごうと音をたてて吹く風に老いた身をさらしながら、落ち着き払った様子で答えた。
「陛下。これは、この国と陛下を災いからお守りする光にございます」
「なんだと?」
「先だって、王妃さまに狼藉を働いた侵入者がおりましたな」
「うむ」
このごろシルヴェウス王は、王妃セラスのことを言われると、どこかつらそうな顔をする。メリル卿は、構わずに冷淡な様子で続けた。
「その前には、陛下がアゼルという魔道士に惑わされておいででした。このことは、いずれもわが国と陛下の敵対者が起こしたものにございます」
「ああ、この儂が記憶を失っていると言われたものだな……なんだか嘘のようだが、いまとなっては何を言われても……さして驚くにあたらぬ」
メリル卿は深々と頭を下げた。王の精神は、正しい道を歩んでいると確信したのだ。シルヴェウスは急に思慮深い面持ちになり、自分の顎髭を撫でながら尋ねた。
「するとこれは、そなたが起こした魔法なのか?」
「いいえ」
メリル卿はかるく咳払いをして、「失礼いたします」と王の側へ寄った。風が強すぎて、声がなかなか届かない。
「この光は、天竜から授かった恵みにございます。この国と陛下は、天竜の慈愛を受けていらっしゃるのです」
彼はわざと細かい説明を省き、曖昧なことを言った。ディーンとカイトのことをすべて説明するには、時期尚早と判断したのである。以前の王であれば、「もっと具体的に言え」と強要しただろう。しかしこのとき、彼の態度は違っていた。
「そうか……」
シルヴェウス王は、ほぼ銀色に近くなった色の髪を風にまかせながら、虹の向こうにある満月を見た。ここ数週間の間に、彼の表情には見違えるほど強い光が宿るようになっている。
「メリルよ。そなたの言う『天竜』を、儂はよく知っているような気がするぞ」
ソリス・メリル枢機卿は答えなかった。老いた賢人の瞳には、長く得られなかった理解を得たことへの喜びと満足が、ただ静かに浮かんでいた。




