第二章 宿命(2)
これまで、シドは賢者について詳しく言及することを避けてきた。彼がいま話そうとしていることは、この国の誰もが知りたがっている事実と、双子の真実についてのことなのだ。
「カンティヌスはわたしにこう言った。『この子らは、姿こそ人間だが、竜の化身である』と」
彼が言い終わると同時に、部屋の空気には動揺が満ち溢れた。当のディーンとカイトはまったく動じていない。二人はもう、ずっと前からそのことを知っていたのだった。
「つまり人間ではない、と賢者は言った。そして、竜の化身であるとはどういうことか」
シドは立ち上がり、暖炉のほうへゆっくり歩いた。そして、壁に掛かった条剣を手にすると、その切っ先でいきなりカイトの手を突き刺した。
シルヴィが悲鳴をあげた。
「何をするの、お父様!」
ところが、剣の切っ先はカイトの皮膚を貫いていなかった。カイト自身も驚いていない。シドは剣を引っ込めた。通常の人間であれば間違いなく血を流すところだが、カイトの皮膚には、かすり傷ひとつ見当たらなかった。
女たちは手で口を押さえ、カイトの姿を異様な眼差しでみつめた。それは、人外のものを恐れる目つきだった。それを見て、シドは悲しげな表情になった。
「いままで隠していて、済まなかった。だが、わかってほしい。これは皆のためであり、ディーンとカイトのためであり、わたしのためであり……この王国、いや、人間とこの世界のためなのだ」
「あなた」
それまで押し黙っていたスクルドが、思いきったように口を開いた。
「この子たちは、いったい何のために生まれてきたのですか」
その質問は、核心に迫るものであった。シドは条剣を壁に戻すと、椅子に深く腰掛けた。
「世界を救うためだ」
「どうやって?」
スクルドはすばやく次の質問を続けた。
「ひとつの伝承がある――おまえたちも、知っていよう。それは魔術の祖、はるか昔の、初代賢者にして偉大なる魔導師、マ・アーリンの予言だ」
マ・アーリンの予言。その言葉を聞いた途端、大人たちは奇妙な表情になった。小さなシルヴィだけが、食い入るような真剣な表情で、父親の顔をまっすぐにみつめていた。
「『竜の剣』! そうなのね、『竜の剣』なのね!」
「……」
シド・ヴァーンは、どこか嬉しそうな顔で興奮している愛娘に返事をしなかった。
そう、その予言はあまりにも有名すぎた。知られすぎていたために、却って誰も信じてはいなかった。こんな話をそのまま信じられるのは、純真な子どもだけ――
ここに、その予言を記す。
大魔導師マ・アーリンの予言
魔法を使う者たちが世界中に満ちる頃
四つの力の均衡が崩れる
崩れた均衡は天と地とを割るだろう
ひび割れた空には天の竜の双眸(※太陽と月のこと)が喪われ
ひび割れた大地には千のゲルブル(悪魔)があふれる
ゲルブルの王は天空の城に住み
一度はすべてが闇に覆い尽くされる
ここに、我マ・アーリンは遺す
世界の終わりに天の竜の救済があらんことを祈り
ゲルブルの王を打ち倒す竜の力を秘める剣
これを持つ者が大地の王とならんことを祈り
火と風と水と土
すべての妖精王の名にかけて
マ・アーリンの魔剣を遺す




