第八章 「秩序」の結界(7)
王妃は無事だった。しかし、魔法で失神させられたのではなく、どうやら後頭部を打たれたものらしい。彼女は王家専属の医師の診察を受けることになり、哨兵たち数人の手で寝室へ運ばれた。あとは、彼女の小間使いたちが付き添い、医師の到着を待った。騒ぎはすぐにおさまった。
騎士たちは、シェルメル公爵が用意した魔道武具を全員備えており、それを使わずに終わるとは予想していなかった。彼らは事の次第を説明するよう求めたが、グウェイは何も言わなかった。結局、彼らはグウェイがその侵入者を、魔法か魔道武具を使って滅したのだろうというふうに理解した。きっとグウェイは、そのことをあまり知られたくないのだと。
「なんと、いきなり王妃を攫いに来るとは……」
ソリス・メリル枢機卿は、帽子をとって汗を拭いながら呟いた。
ここは学問所、メリル卿の研究室。壁の中の「魔法陣の間」で、双子の公子と騎士たちとメリル兄弟、それに二人の若い魔道士が、八つの椅子を円形に並べて話し合っていた。
「ぼくらが魔法陣を描き始めたことに気づいたからでしょう。おそらくそれで、彼らは時間がないと焦った。悠長なことをしていられなくなった訳です。このことは、逆にこの魔法陣の有用性の証左になります」
彼らの中心には、ディーンとカイトの書いた魔法陣解説図が浮かび、ゆっくりと回転している。今これを浮かせているのはメリル卿ではなく、ディーンの魔法だ。
王立図書館に通い始めたためか、ディーンの言葉遣いは以前にも増して大人びたものになってきた。キリエとシグヌスは、どちらも放心したような表情でディーンの説明を聞いている。彼が単なる魔法の天才児ではないと、ようやく理解したのだ。
実は、六歳から十歳程度の子どもに魔法の才能が開花すること自体は、そうめずらしくない。稀に、まだ言葉をよく覚えないうちから、とんでもなく高度な魔法を使う子どもがいる。「妖精っ子」と呼ばれるこの現象は、彼らが成長するにつれて徐々に消えていく。最終的には、彼らはまるで普通の人間になる。
キリエとシグヌスは、当初ディーンとカイトがその「妖精っ子」だと思いこんでいた。ちょうどカイトが喋らないのと同じように、「妖精っ子」は言語能力の発達が遅れることが多いためである。しかし、ディーンの様子は明らかに違っていた。
「できるだけ早く、魔法陣を完成させましょう。そうすれば彼らは王都に入り込めなくなります。初めはこの魔法の範囲を王城だけに留めようと思っていました。でも、王都全体に結界を張ったほうがいいと思います」
ディーンが何やら高等な呪文を唱えながら解説図のほうを指差すと、そこに王都ルベイの地図が出現した。彼の見事な転送魔法に、シグヌスとキリエは声をあげて感嘆した。二人はまだ、この双子が呪文なしで魔法を使えることは知らない。
ディーンは素早く浮遊呪文を唱え、地図の位置を解説図と並べて、空中に固定した。騎士たちからは背面になるため、その中身はよく見えないが、薄い紙に描かれた地図は光に透けている。
「本質的には、この魔法はゲルブルを『扉』の向こうに閉じ込めているのと、同じものです。魔法の適用範囲が広いと、それだけ大きな魔法陣を描かなければなりません。そして、それぞれの陣を描く位置を決める必要があります。この地図の上で魔法陣を描く場所は……」




