第八章 「秩序」の結界(6)
まるで申し合わせたかのような一致にギレンは驚いたが、これはおそらくディーンとカイトが、相手の位置を読んで……そのまま、グウェイの意識に伝えていたのだろう。
グウェイは短い呪文を唱えながら、剣を抜いた。それを見たギレンは叫んだ。
「だめです、王妃が!」
しかしグウェイは、既に飛び出していた。黒服の男は片手を上げた。彼の周囲に、雷を纏った黒い球のようなものが、無数にあらわれた。
男は左腕に王妃セラスを抱えたまま、グウェイに向かって右腕を振り下ろした。すると黒い魔法の球体はグウェイの身体に次々と命中し――ことごとく弾かれた。グウェイの着ている白銀の鎧は、ギレンの鎧と同じく魔法反射性能を備えているのだ。
グウェイはまったく勢いを止めることなく、男の前に滑り込んだ。
至近距離である。
彼はそのまま、大きく剣を振るった。
ギレンは、はっと息を呑んだ。王妃が傷を負う、と危惧したのである。
しかし、緋鬼ル・グウェイにそんな失敗はない。
黒服の男の腕が、切り離され――グウェイはセラスの体を抱きとめた。グウェイが斬った男の腕からは、一滴たりとも血が流れない。
「ギル!」
ディーンが叫び、ギレンは弾かれたように前方へ走った。グウェイの腕から、気を失った王妃を受け取る。
同時に、ディーンとカイトは互いの掌を重ねて差し伸べた。二人の指の先から、虹を含んだ白色の光が奔った。
光は、まっすぐに男の心臓部へ吸い込まれた。
獣のような咆哮が響き渡った。
黒服の男を追ってその場所に到着した魔道騎士たち、哨兵たち、そして飛竜騎士たちは――男の体が煙になって消え、服だけが、ゆっくりと崩れるように落ちていくのを目撃した。
戦闘は、あっという間に終わった。あとには、天井窓から差し込む午後の黄色い光と、硫黄に似た異臭が漂っているだけだった。




