第八章 「秩序」の結界(5)
すぐさま、グウェイは首にかけた銀色の細い筒笛を出し、鋭く吹き鳴らした。
――ヒイィーーーーーーーーーーーーンン……
『風笛』である。この音は、半径一ティカナの範囲すべてに響き渡るという魔法の笛で、その範囲ではほぼ同じ音が確実に聴こえる。いろいろと特色のある音を作ることができ、軍隊での連絡手段として広く使われている道具だ。むろん、もっと遠くまで音の届く道具もあるが、風笛よりやや大型になる。
合図を聴いた哨兵たちが、王妃セラスが食後に休みをとる小部屋の前へ、次々に駆けつけた。この特殊警護にあたる者は、セラスの居場所や行動をすべて正確に把握している。
「失礼します!」
真っ先に到着した哨兵が、扉を開けようとした。
動かない。
ノブが回らないのだ。これは、鍵が掛かっているのではない。魔法である。
哨兵はドシンと強く体当たりしたが、扉はびくともしない。
「裏手にまわれ! 魔道騎士を呼ぶ」
扉の前に立った哨兵は、他の兵士たちに指令を出すと同時に襟元から笛を出し、思いきり吹き鳴らした。
――ピィイーーーーーーーーーー!
哨兵たちとすれ違いざまに、白と青の模様のある鎧を着けた三人の魔道騎士が、槍を持って駆けつけた。彼らが左手に持つ盾には、二頭の竜と一本の剣――ルーン王家の紋章が描かれている。王族の警護にあたる、最高級の騎士である。
「この扉が魔法で塞がれています!」
哨兵が叫ぶと、先頭の魔道騎士が短い呪文を唱えた。一瞬で扉が開かれた。魔道騎士は、中級魔道士の魔法と、一流の戦闘技術の両方を兼ね備えている。
彼らが王妃の部屋になだれ込むと、既にセラスの姿は部屋から消え去っていた。
王妃のいない部屋では、開いた窓辺に薄いカーテンが揺れていた。小間使いの女が、恐怖に顔を歪めながら床にへたりこんでいる。
「王妃は!」
魔道騎士が問うと、小間使いは窓を指差した。外へ出たのは間違いないようだ。彼らが窓の外を見ると、王妃が首に巻いていたスカーフが、すぐ下にある樹の枝に引っ掛かっていた。
「外へ。飛竜騎士を呼べ」
魔道騎士は哨兵に指示を出すと、飛行呪文を唱えながら窓を蹴り破って外へ飛び出した。迅速な行動である。飛行呪文は、あまり高い場所は飛べない上に短い時間しか効かないが、高低差のある場所を素早く移動するには向いている。
三人の魔道騎士が窓から外へ滑り出し、残った哨兵は金色の笛を吹いた。
――ピリリリリリリリリ!
ディーン、カイトの前をグウェイと並んで走りながら、ギレンは焦燥を感じた。この笛は、飛竜騎士を呼ぶ合図である。ということは、彼女が既に連れ出されているために、空から捜索する必要があるのだ。最悪の場合は、自分も輝甲竜アギスを呼ばなければならない。
階段を降りて一階に着いたところで、グウェイは脇に抱えていた兜を、無駄のない動作で身に着けながらギレンに言った。
「兜」
ギレンはやや躊躇ったが、すぐに自分の兜を被って戦闘態勢に入った。
同時に、彼らの前に大柄な黒服の男が現れた。その腕に、白いドレスを纏った王妃セラスを抱えている。




