第八章 「秩序」の結界(1)
第八章 「秩序」の結界
双子が王都ルベイに滞在する間、ソリス・メリル枢機卿は彼らにほぼつきっきりの状態になった。シルヴェウス王はそれを快く思わない訳でもなかったが、枢機卿がそれほどまでに熱を上げている理由が気になって、ときどき、政務の合間に彼らの様子を見に訪れた。
はじめのうちギレンは心配していたが、シルヴェウス王は、双子の公子に対して特に悪い感情を持っている様子はない。むしろ、ディーンに対しては好意を抱いているようにさえ見受けられた。カイトのことは、どういう訳かまるで無人のように黙殺している。
ソリスとマルス、ルーン王国きっての秀才であるメリル兄弟は、お互いに早口で主張をぶつけあう口論を始めることがあり、不和の理由が窺い知れた。二人とも研究と勉学に熱中すると、つい我を忘れてしまうのだ。そのたびにディーンがいちいち仲裁に入るのは、なんとも笑いを誘う光景だった。
ソリス・メリル枢機卿が連れてきた魔道官は、シグヌス・アルウェンという古風な名前を持つ二十歳の青年と、キリエ・リンドという名の十六歳の少女だった。ギレンは彼女が若すぎるのではと懸念したが、ディーンと会話している様子を見る限りでは、むしろシグヌスよりもキリエのほうが優秀なようだ。
シグヌスは非常におっとりとした、優しく上品な顔立ちで、話し方も育ちがよさそうな金髪の青年である。貴族の出身であろうと思って尋ねてみると、やはりそれなりの名家に生まれたようだ。王立学問所附属の学校に通っていたということは、相当恵まれた環境に生まれ育っている。
アルウェンという名にはギルは聞き覚えがないのだが、「母方の姓なのです」と彼が言うので、何か事情があるのだろうと考え、それ以上突っ込んでは訊かなかった。
いっぽうキリエは、驚いたことにシド・ヴァーンとささやかな縁を持っていた。彼女の兄、キリウ・リンドがシュブラウス城にいるのだ。二人は決して裕福な生まれではないのだが、学校を出てすぐに、兄キリウがなぜかシドの従者に選ばれて、そのおかげで自分も学校を出ることができたのだと言う。
「でもあなたの歳だと、まだ卒業していないはずでは?」
ギレンの質問に、キリエは黒パンを丁寧に手で千切りながら答えた。
「飛び級なんです。去年卒業して、試験を受けて、どうにか学問所に入れてもらうことができました」
キリエはそのパンの欠片を、胸ポケットに入れた。すると、ポケットの中から小さな赤い生き物が顔を出して、ひどく繊細な手でパンのかけらを受け取った。目を丸くしたギレンを見て、キリエは快活に笑った。
「ふふふ! 可愛いでしょう? 内緒ですよ……わたし、火蜥蜴を飼ってるんです」
「えっ、それがあの『火蜥蜴』なの?」




