第七章 竜の鏡(8)
メリル卿が声をあげると、それまで彼の前に浮遊していた鏡の位置が下がった。彼は「おおっと」とつぶやいて、両手で鏡を受け止めた。浮遊呪文は術者の意識に依存するため、気を抜くと魔法の効果が落ちるのだ。
「邪法に対して有効な結界を張ることができるなら、ぜひ教えてくだされ。それさえ学べばもう、この鏡を手放しても大丈夫ですわい」
彼はディーンとカイトの前にしゃがんで、双子の眼をかわるがわる熱心にみつめた。二人はしばらく黙っていたが、やがてディーンが静かに口を開いた。
「そうですね、わかりました。ただ、かなり高度な魔法陣ですので……図書館長のマルスさんと一緒に。あと、有望な若い魔道士を二人ほど、連れてきてください」
マルスの名を聞いて、メリル枢機卿はちょっと嫌な顔をした。しかし、すぐ諦めたようになって「わかりました」とつぶやいた。彼は弟と顔を合わせるのが気まずいようだ。
「この鏡は仰る通りにお譲りしますが、ちと研究したいことが出来ましたので……もう少し後でもよろしいでしょうか?」
「実は、早いほうがいいです。できれば今すぐ。『導きの光』が、いつ来るかわかりませんから」
その言葉を聞いたメリル卿は、ひどく残念そうな顔をして、名残惜しげに鏡の装飾を撫でた。
「……ううむ、では、もうしばらく王都に滞在してくださらんか」
ディーンとカイトは同時に明るい声で笑った。ギレンは、カイトの笑い声を初めて聴き、心底驚いた。彼がそんな風に笑うことがあるなんて、思いもよらなかったのだ。
なんだかんだ言っても、やはりまだ無邪気な子どもなのだ、と彼女は思った。そして、できることなら他の子どもと同じように、思うさま彼が野山で遊びまわれるようになればいい、と考えた。カイトが笑わないのは、いつも何かにずっと耐え続けているからで、本当はもっと気楽に笑い、子どもらしく遊ぶべきなのだと。




