第七章 竜の鏡(7)
自分が誰かを憎み、何かを破壊し、すべてを壊したいという衝動を持っていること。これではないだろうか? ゲルブルという名の悪魔――「混沌」という存在に、最も近いもの。その時なぜかギレンは、師父ローランドがよく口にしていた言葉を思い出した。
(大きなものは、小さなものの繰り返し……)
突如、ディーンがグウェイに向かって声をかけた。
「ルゥ」
グウェイが、少し驚いた表情で面を上げた。彼に対するディーンの呼びかけは、家族が呼ぶときだけの愛称なのだ。
「いい? ルゥと呼んでも」
「はい」
グウェイはすぐに戸惑いを掻き消し、ゆっくり頷いてから主の眼を見た。
ディーンは一瞬カイトと顔を見合わせてから、ソリス・メリル枢機卿に向かって言った。
「その鏡を、ルゥに預けてもいいですか?」
「えっ、グウェイ侯に?」
「はい」
メリル卿は、ディーンの申し出に首を傾げた。彼にとっては家宝であり、おいそれと手放せるようなものではない。彼の眼が求めるのに応じて、ディーンは提案の理由を説明し始めた。
「ルゥは、ぼくの騎士。ギルはカイトの騎士。二人はこの運命をみずから選びました。このことは、二人の未来を大きく変えてしまいました。ルゥとギルは、これからたくさんのゲルブルと戦うことになるはずです」
ディーンをみつめるグウェイの眼が、一瞬、すこしだけ震えた。ギレンはそれを不審に思った。動揺しているル・グウェイなど、これまで一度も見たことがない。
そのときギレンの頭の後ろに、再び幻視が入り込んだ。燃え盛る炎――その中に、巨大な黒い影。はっきりと、六枚の翼が広がっている。
だがその幻視は現れてすぐに薄れ、あっという間に消えてしまった。何か、幻視の邪魔をされたような中途半端な感触が残る。
思わずギレンはカイトのほうを見た。主は自分に何を見せたかったのか? しかし、カイトは振り向かなかった。ギレンの耳に、ディーンの言葉だけが朗々と響く。
「ゲルブルの一族は、おそらく地上にまだ生き残っています。どこにいるかは判らないけれど……どこからか、いつもぼくらの様子を見ています。彼らは、邪法を使ってぼくらを引き離そうとしてくるはずです。ぼくらが一緒にいる間は、直接手出しできない」
「そうでしょうとも」
メリル卿は熱心な視線をディーンに注ぎ、鹿爪らしい表情になって頷いた。ディーンはそのまま話し続けた。
「ぼくらは、いずれ北の賢者カンティヌスに会って、導きを得なければなりません。カイトの体が封印の解除に失敗して……そのために、運命が変わってしまっています。いずれ『導きの光』があらわれて、ぼくとカイトを北の塔へ誘う時がくるでしょう。そのときまで、ぼくらは離れずに待たなければならないのです」
「しかし、そうするとこの鏡は、むしろ王家に必要なのではありませんか?」
メリルは白い顎髭を触りながら首を傾げた。ディーンはカイトと目を見合わせて、にっこり微笑んだ。
「いま、図書館で邪法に対抗する方法をみつけてきました。大丈夫、王家に手出しはさせません。鏡よりむしろ、ぼくらが魔法陣を描いて結界を張るほうが効果的です」
「なんですって、結界?」




