第七章 竜の鏡(3)
人間に魔法の使い方を教えたのは、マ・アーリンと妖精たちだといわれている。古文書を研究する魔道士たちは、妖精とは「物質と、物質でないものの中間に位置する存在」と考えている。「物質でないもの」とは、竜の本質である。つまり、それが魔法の源であるという訳だ。
この仮説が正しいかどうかはわからない。ただ確実に言えるのは、古代に栄えた妖精たちは、現在の人間よりもずっと卓越した魔法の能力と、非常に発達した細工の技術を持っていたということである。
ディーンが過去の記憶を持っていることに、メリル卿は高揚を隠せない様子だった。無理もないだろう。ありとあらゆる知識の秘密が、彼の魂に隠されているのだ。メリルは、声を震わせながら恐る恐るディーンに尋ねた。
「その、アーリンというのは……大魔導師マ・アーリンのことでしょうか?」
「うん、そうだよ」
楽しそうな声で、ディーンはその鏡面に手をかざした。すると、「火」を意味する古代魔道文字が赤く光りながら、鏡面の上に大きく現われた。そして次に「風」を意味する文字が、白く光りながら現われた。ディーンは隣に立っているカイトに囁いた。
「すごい。まだちゃんと使えるよ」
カイトは頷いて手を伸ばし、同じように鏡面の上に手をかざした。こんどは「土」を意味する黒い文字、「水」を意味する青い文字が現われた。
その四つの文字は、二人の頭の上でぐるぐる回りながら集まって光の球となり、吸い込まれるようにして硝子壜の中へ入った。
――パァン!
いきなり、白い光が弾けた。
ギレンは驚いて「ひっ」と小さな声を洩らした。いま目の前で何が起きているのか、彼女にはまったく理解できない。
硝子壜には、なんの異状もなかった。ただ、それまでそこにいていた、あのどす黒い塊だけがきれいに消え去っていた。
「い、いまのがこの鏡の本当の力なのですね!」
興奮に目を輝かせて、メリルが叫んだ。
「今まで何をどうやっても、この『種』を、そこの灰色の塊のようにすることしかできなかったのです。いやはや、すごい……素晴らしい。その魔法はどういうものなのですか?」
「この鏡は補助器具です」
ディーンは、拍子抜けするほどあっさりした口調で答えた。
「鏡自体には何の力もありません。この灰色のは、『種』の力が封印された状態――要するに、肉が凍っているようなものです。これは、術者であるメリルさんの魂が肉体を離れると、術が解けてしまいます」
そう言いながら、ディーンはカイトと掌を重ねて、そのまま灰色の玉のほうへ差し出した。すると、二人の手のあいだから先ほどと同じ光が出て、一瞬でその玉を消し去ってしまった。
メリル枢機卿は、ディーンの言っていることがすぐに理解できたようだ。愕然とした表情で双子の顔を見ながらつぶやいた。
「なんと、魔法の補助具――すると、あなたがたはいま、鏡の助けなしにその魔法を使われたのか」




