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竜の剣  作者: 高倉麻耶
第一部 第七章
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第七章 竜の鏡(1)

第七章 竜の鏡


 王立図書館から出てまず彼らが向かったのは、学問所の所長研究室である。そこには、ソリス・メリル枢機卿が常駐している。


 彼にはもっと立派な政務用の部屋もあるのだが、そちらには秘書と事務官がいて、何かあれば研究室に連絡を取り次ぐことになっている。ソリスには立派で豪華な革張りの椅子よりも、長らく研究室で使っている小汚い木製スツールのほうが、座り心地がいいらしい。もともと政治などにはこれっぽっちも興味を持っていない、学者肌の男なのだ。


 「枢機卿」という役職は、国内のあらゆる魔道学問所の最高権力である。つまり、王立学問所の顧問にあたる政務官で、所長はその下の地位である。ふつう枢機卿になれば学問所を辞めてしまうものなのだが、彼はそのまま辞めずに所長を兼任している。過去に前例はない。


 実はここにも兄弟の確執があって、本来ならば弟のマルス・メリルが王立学問所の所長におさまるはずだったのだが、マルスがちっとも魔法がうまくならないので「それで所長が務まるものか」と怒り、彼の魔法上達を待っているという訳だ。


 マルス・メリルは魔法に関する書物を網羅し、すべての原理についても学術的に解明しようと研究を重ねている第一人者である。しかし、なぜか使うほうはさっぱりだめで、中級の魔術でもときどき失敗するほど苦手なのだった。


 上級魔術に至っては、呪文は完璧に憶えているのに使ってみると有り得ない結果が、などということもしばしば起こる。魔法については熟知しているはずなのに、なぜかうまく使えない。当人をはじめ、多くの人が首を傾げる。しかしマルスは、魔法を使うということについては、もはや諦めかけているようだ。


 兄のソリスは、幼い頃から「天竜の祝福を受けた子」と呼ばれるほどの神童ぶりを発揮していた。この兄弟は、影で「ルーンの七不思議」と囁かれている。


「おお、これは公子殿下……お待ちしておりました」


 メリル枢機卿は深々と頭を下げ、ディーンとカイトを出迎えた。グウェイとギレンは扉の外で待とうとしたが、「お二人も、中へ」と誘われたので、ともに研究室の中へ入った。メリルの従者が外に出て扉を閉め、部屋の中は五人だけになった。


「ぜひ、お見せしたいものがあるのです」


 メリルはそう言いながら、壁の中にすっと入ってしまった。思わず、ギレンは「えっ」と声をあげた。すると赤煉瓦の壁の中から、枢機卿が顔だけを出して笑った。


「ははは、この壁は幻覚です。恐れずにそのまま通られればよろしいのですよ」


 彼が姿を消した壁に、ディーンとカイトが吸い込まれるように消えた。同じく、グウェイも壁の中に入った。ギレンは戸惑いながらも、壁のあたりを手で探ってから目をつぶり、思い切って中に入った。


 すると中には、床じゅうに無数の魔法陣を描いた、小ぶりな部屋があらわれた。ギレンは、とりわけ大きな魔法陣が放つ青白い光に、目を細くした。魔術光に隠れてよく見えないが、その中心に何かが置いてある。


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