第一章 ディーンとカイト(3)
「あの双子は、やはり悪魔の遣いであった」
ルーン国王シルヴェウスは、いまや猜疑心の塊と化していた。彼は側近の魔道士アゼルに尋ねた。
「おまえは、どう思うか」
王は、なぜかこの若い眉目秀麗な魔道士を、一目見たときからひどく気に入って抜擢し、ついには他の高官たちを退けて、アゼルにばかり意見を求めるようになっていた。
アゼルは、最初のうちこそ皆が納得するような善政をすすめていた。しかし、そのうちにやや無茶なことを言い出すようになった。当然それは他の者たちに快く思われず、中には名指しではっきりと忠告する者もいた。
しかし、そのような目立つ行動をとった官吏は、すべからく不幸な目に遭って命を落とした。それが、何か悪しき魔術によるものとわかっていても、誰もどうすることもできなかった。最も高い技術を誇る王立学問所の所長でさえ、アゼルの使う魔法の正体を突き止めることができなかったのである。
人間の使う魔法は、はるか昔に妖精の一族から伝授されたものと伝えられている。それは大きく四つの魔法に分けられる。すなわち火の魔法、風の魔法、土の魔法、水の魔法。その中には、人を呪ったり陥れたりするようなものはない。すべて、世界を制する力である「竜の力」を借りて、人の生活を豊かにするための魔法なのだ。
ルーンの国に伝わるおもな魔法は、水の魔法が多い。そのため、ルーンは「水の大国」とも呼ばれている。水の魔法と親和性が高いのは、土の魔法である。しかし、ルーン王家に伝わるのは水の魔法の極意書のみであり、他の高等魔法は、ほかの三国の秘するところとなっている。
ルーン王国では、高等魔法は「水の魔法」を中心にして、それに沿うかたちで「土の魔法」が使われている。「火の魔法」と「風の魔法」は、ごく初歩的なものから中級程度までしか、教えられる者がいない。
同じ状況が、他国で起きている。火の魔法を主として使う砂漠の国ティク、風の魔法を使う峡谷の国ファラン、そして土の魔法を使う広大な国ミディア。水の都ルーンを入れると、それぞれ四つの魔法を柱として、四つの王家が大陸を分けている形になる。このほかにも、少数民族が自治を行う土地があるのだが、それは普通の人間が住める場所ではない。
これら四つの大国は、それぞれの魔法の極意書を、王家が代々伝えている。その書は王位が交替する際の戴冠式に使われる時以外は、地下の封印所に祀られている。極意書を読むことができるのは、王立図書館の高位魔道士たちだけである。それぞれの国で、絶対の秘密とされている至宝なのだ。その最高級の魔法を知っている者は、一生、王宮から出ることはできない。そして、必ず三人の魔道士のみと決まっている。
ただ、例外がある。それは「北の賢者」である。
賢者は、妖精から人間に伝えられた、すべての魔法を知っている。彼は、大陸の最も北に位置する雪山の最高峰にあるという、「北の塔」に一人で住んでいる。
五百年に一度、賢者は人前に姿をあらわすという。なんのためかはわからない。何か人智では計り知れない、深遠なる目的があるのだろう。しかし多くの人は、賢者などただの伝説だと思っている。
「永遠の命を持っている」
「妖精族の、唯一の生き残り」
「すべての魔法を使うことができる」
賢者はこのように噂されている。
その「伝説の賢者」が、ルーン王弟シド・ヴァーンのもとに現れ、「儂は北の塔に住むカンティヌスだ」と名乗った。この話を聞いたとき、はじめは誰もがシドの冗談だと思った。しかし賢者から預かったというその双子の赤ん坊は、ルーン王国最高位の魔道士ですら読めない印を、額に刻まれていた。
カンティヌスと名乗った男は、白く長い髭を足もとまで垂らした、老人の姿をしていたという。彼は双子の額に「祝福の印を刻んだ」と言ったらしいが、どちらかというと、性質は封印の魔法に似ていた。
ルーン王国の誇る魔術の最高位にある、三人の高等魔道官が、二人の赤ん坊の印をあらためた。しかし彼らには、何が描かれているのかさっぱり判らなかった。
辛うじて判別できたのは、ディーンの印に刻まれた「火」「風」の古代魔道文字、カイトの印に刻まれた「土」「水」の古代魔道文字、これだけであった。
最終的に、彼らは「シド・ヴァーン公が会った人物カンティヌスは、本物の賢者である」という判断を下した。




