表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の剣  作者: 高倉麻耶
第一部 第五章
37/139

第五章 ルーンの妖精(10)

「王子!」


 ちょうどそのとき、リィル・シェルメル伯爵夫人が、供を連れて戻ってくるところだった。


「まあ、まあ! シド王子、セラスとご一緒ではなかったのですね」

「シェルメル夫人、わたしも彼女を探しているのです」

「そんな……」


 夫人はシドの胸ほどの高さしかない頭を横に振り、焦った様子で彼を見上げた。


「うちの人をご存知ありませんか? わたしに内緒で出かけたまま、まだ帰ってきていなくて……こんなときに、どこへ行ったのかしら」

「ギレン侯のところです。わたしはそこから来たのです、ご心配なく。姫君は?」

「どこにもいません。家中の者で手分けして探しています。あの子に、もし……もし、何かあったら」


 リィル・シェルメル夫人は両掌で顔を覆い、わっと泣き崩れた。供の召使二人が、両側から彼女の肩を支えた。そのうち一人がシドを仰ぎ見ながら言った。


「王子、お心当たりはございませんか? わたしたちには、姫様のお心はわからないのです」


 そう言われて、シドは息を呑んだ。ひとつの考えが電撃のように閃いたのだ。

 初めて会ったあの湖畔――彼女が行くとすれば、そこだ。そこしかない!

 思うと同時に、彼は再び走竜に飛び乗った。


「どこへ!」


 背後から追いかけた声に、シドは返事をしなかった。


***


 だが、日没と同時に到着したその湖畔に、人影はなかった。


 月の光が水面に揺れ、虚しい静けさが不気味に漂っている。風だけが彼に囁きかけていた。「もう遅い、もう遅いのよ」と。


 シドは、走竜を降りて湖のまわりをとぼとぼ歩いた。夜空は深い失望の色に沈んでいる。星はひとつも見えない。彼の胸を、つめたい風がびょうびょうと吹きぬける。


 ふと、視界の端に何か白いものを捉えた。

 近づいてみると、それは小さな手巾だった。シドはそれを、指先でそっとつまんで拾い上げた。花の香りが染み込んでいる。それが何の花なのかシドにはわからなかったが、誰のものであるかはすぐにわかった。この手巾はセラスが落としたのだ。おそらくは、わざと……自分に知らせるために。


 シドはそれを振って埃を払うと、丁寧にたたんで、胸もとに入れた。

 そのとき彼の正面に、近づいてくる松明の火が見えた。走竜に乗った人物が、こちらを目指してまっすぐに駆けてくる。


「王子!」


 ルースの声だった。シドは手を振った。

 シドの前に来て、ルースは騎上から降りた。そして松明を持ったまま、早口に告げた。


「セラス姫が屋敷に戻られました。その――シルヴェウス様と、ご一緒に」


 その瞬間、シドの中で何か見えないものが崩れ落ちた。

 彼はセラスを永久に失ったことを理解した。間に合わなかったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ