第五章 ルーンの妖精(9)
久々の更新になりました。
申し訳ありません。
できる限りアップしていきます。
沈みゆく太陽に照らされて、シドの胸は高揚していた。
セラスを取り戻さねばならない。しかし、彼の愛する相手は、いまや次期国王にあたる兄・シルヴェウスの婚約者になろうとしている。彼女を取り戻すとは、どういうことか。シドにはよくわかっている。王位継承権を失い、あるいは――王族という立場すら失うかもしれない。ほかに何を失うか? わからない。この国に住めなくなるかもしれない。最悪の場合は、自分の命を失うだろう。
だが、それでも。
行かなければならない。
彼女をこの手に抱き締めなければ。
愛する人が待っている。待ってはいないだろうか? いや、きっと待っている。シドは心の中で何度も叫んだ。セラス、セラス。待っていてくれと。
リィル・シェルメル家の邸宅はしんと静まりかえっていた。夜風が、ざわざわと枝葉を不穏にかきならし、シドは胸が冷えながら騒ぐのを感じた。いやな予感がする。
煉瓦造りの立派な門の、ふるい木造の扉を叩いた。
「どなたか! どなたかいらっしゃらぬか!」
しばらく待ってみたが、何の反応もない。家中に人の気配がしない。シドは「失礼する」と言って扉を押し開けた。無用心にも、鍵が掛かっていない。するとそのとき、屋敷の奥のほうで明かりがついた。シドはほっとして、大窓の前に立って叫んだ。
「セラス姫! そこにおられるのですか?」
窓の中はよく見えないが、誰かの影がかすめた。シドはそれを、
(セラスではない)
と感じた。小間使いのような雰囲気だ。
屋敷の重い金属扉が開かれた。燭台を持った十五歳くらいの少年が、いぶかしげに顔を出した。服装からして、この屋敷で仕える召使であることは間違いない。
「セラス姫はおられるか? 急いでいるのだ」
「いません」
少年はすげなく答えた。シドは血の気がひくのを感じた。
「みんな姫様を探しに行っています。あなたは、もしや――シド王子?」
「……そうだ」
彼の全身に、ぞっと鳥肌が立った。セラスがいない?
「姫は? いつ? どこへ」
「痛い!」
いつの間にか少年の肩を乱暴に掴んでいた。はっとして、シドは手を離した。
「すまない」
「……姫様の居場所はわかりません。みんな探してるんです」
少年は顔を歪ませながら自分の肩をさすった。シドはもう一度みじかく謝罪を述べると、門の前に待たせていた走竜に駆け寄った。




