第五章 ルーンの妖精(6)
後日、ちいさな金翅鳥のようなマイアは、報せを受け取って胸が張り裂けるような思いをしただろう。あの晩餐のあと、シルヴェウスは「どうしてもセラスがいい」と言い張って、シドと自分の許婚を無理やり取り替えさせてしまったのだ。
シグルド王は、公的な政務はよくこなすほうだったが、私的なことには少し配慮が足りなかった。シドの意見を訊くこともなく、シルヴェウスの要求を聞いただけで勝手に決めてしまったのである。その辺りは本人の意向よりも親の判断に任されるべきと考えたのだろう。しかし、それは三人の心を一度に引き裂く、あまりにも残酷な仕打ちであったといわざるを得ない。
そのことを従者から知らされたシドは、予想通りとはいえ、最悪の事態になってしまったことに苦しんだ。何か避ける方法はなかったのだろうかと。その胸の痛みは、かつて感じたことのない烈しさで彼の身を焼き焦がした。そして、三日後に彼は思った。
(あのとき彼女の顔を見てみたいと望んだことが、そもそもの間違いだったのだ)
シドは突き刺されるような苦痛にもがきながら、一通の手紙をしたためた。
「あなたのような美しい女性は、たしかに王妃に相応しい。きっとこれは最初からそういう運命だったのでしょう。ぼくは儚い夢をみていたに違いない。でも、心からあなたのことが好きでした。実際にはたった一言しか交わしていないけれど、手紙に書いた文字が、ほんとうにぼくらの声でした。あなたの心と結ばれていると信じていました。これで最後です。あなたの幸福を、誰よりも祈っています」
その手紙は、ルース・シェルメルの手で、セラス本人に直接届けられた。ルースはすべての経緯をシドから聞き、彼の想いも身に沁みてよくわかっていた。彼は小間使いのはからいで、二人きりで会うことができたという。
手紙を読み終えると、ふだんは何事にも動じないセラスが、いきなり泣き崩れた。
「シド様。どうして」
セラスは動揺のあまり、返事を書くこともできなかったという。そしてルースに、
「ひとりにしてください」
と言い捨て、そのまま部屋に閉じこもってしまった。




