第五章 ルーンの妖精(5)
その麗しさは、予想以上だった。まだ十五歳のはずなのに、彼女には既に大人の淑女としての風格があった。マイア姫の清純な愛らしさも、セラスの冴え冴えとした美貌の前に、シルヴェウスの眼中から追い出されてしまった。
シドは、胸のうちに嫌な感触をおぼえた。セラスをみつめるシルヴェウスの眼。そこには、ただの興味や美を愛でるものばかりではない、もっと強烈な何かがある。ひどく耳鳴りがして、うるさく止まない。シドは忙しく眼を動かし、セラスの様子と、シルヴェウスの様子を眺めまわしていた。そして、そんな自分の醜態を「情けない」と嫌悪した。
シドは、そのとき自身の胸の内に芽生えた感情を、嫉妬だとは知らなかった。二十年間の人生の中で、彼が他人に対して嫉妬をおぼえる機会など、それまで一度もなかったのである。彼は常に羨ましがられる立場だった。そしてそれ以上に、純朴でまっすぐな、ひねくれたところのない青年だった。
セラスはどちらの王子が自分の許婚なのか、すぐにわかったようだ。六年前に一度会ったきりとはいえ、シドとシルヴェウスは顔立ちがまったく違う。どちらも少しずつシグルド王に似てはいるのだが、シドは第二王妃であった亡母シリアにそっくりな、広い額と奥深い眼差しを持っていた。その賢そうな目もとは、彼の無骨な容貌に気高さを与えている。
人々が見守る中、セラスはしずしずとシドの前に歩み出て、すっきりとした声で短い挨拶を述べた。
「ご機嫌麗しゅう」
シドはこのとき初めてセラスの声を耳にした。それは思ったより低く、しかし瑞々しく、華のある、しっとりとした大人っぽい声だった。もし歌を歌わせたら、とても心地よく響きそうな。その声はセラスの外見に花を添えるのみならず、女らしい彼女の性質を顕著にあらわしていた。
シドの胸に、蕩けるような恋慕の情熱が湧いた。二人は、しばし互いをみつめあった。セラスはやや頬を紅潮させているようだった。そして、彼女の碧玉に似た水色の瞳が自分と同じ想いを語るのを、そのときシドは確かに読み取った。
「……あなたも」
やっとのことで、シドは一言だけ返事をした。セラスは白銀の睫毛を伏せて目礼し、従者にすすめられて席の後ろに立った。
宴席にいる間、二人の王子は一言も喋らなかった。シグルド王に話しかけられても、上の空で返事をするだけだった。二人とも完全にのぼせてしまって、マイア姫の存在を忘れているかのように、ちらちらとセラスばかりを気にしていた。




