第五章 ルーンの妖精(1)
第五章 ルーンの妖精
ディーンがメリル卿とシェルメル公爵に残した助言により、王妃セラスはひそかに厳重な監視を受け続けることになった。無論、彼女自身はそのことを知らない。
王妃の監視は、二十四時間体制で、魔道官が「水面鏡の魔法」を交替で行うということになった。そして、異状があればすぐさま魔道騎士が駆けつけ、怪しい人物を彼女に近づけないようにする。もしも何か起これば、いかに些末なことであっても、シュブラウス城へ伝令が走ることになっていた。
「黒の森」のシュブラウス城では、竜騎士二人の入城をものみなすべて喜んだ。翌日、王の救出策の成功を祝うとともに、盛大な歓迎の宴がひらかれた。グウェイとギレンはそれに感謝の意を表したが、酒は一滴も飲まなかった。
ヴァーン公配下の騎士たちは、英雄グウェイとともに働けることを喜んでいた。だが、女性の騎士というのは、彼らにはなかなか受け入れがたいものであった。ギレンが来たことをいちばん喜んだのは、シルヴィである。
暇をみてはギレンに駆け寄ってうるさく話しかけるシルヴィに、ギレンは嬉しいながらも当惑していた。グウェイには「これじゃカイト公子殿下の護衛というより、姫のお守りだな。そのほうがよかったんじゃないのか」と嫌味を言われる始末である。ギレンはむすっとして言い返した。
「めずらしがっているだけですよ。すぐに飽きます」
実際、移り気なシルヴィはギレンが城に住み込むと知った途端、「いつでも話しかけられる」と考えて、あっさりとつきまとわなくなった。
***
「それで、どうだった。陛下の様子は」
シド・ヴァーンは暖炉の前で、双子と語り合っていた。もちろん、ほとんどはディーンがひとりで喋っている。
「いまはまったく問題ありません。健康状態は芳しくありませんが、徐々に快復されるでしょう。父上に対して猜疑心を持っておられるということもなく、信頼を取り戻すなら今だと思います」
「ああ……まぁ、それはいいのだ」
「なぜですか。本心では陛下との交流を望まれているのに」
ディーンに隠し事はできない。シドは目を逸らし、溜め息を吐いた。
「確かに、わたしは兄上と仲良くしたい。この国の未来と関係なく、兄弟というのは仲良くあるべきものと思う。しかし、ルベイには王妃がおられる」
「王妃のいないときに会われたらよろしいのでは」
「……それはそうだが、追い出す訳にもゆくまい」
「父上。ぼくらは、宮殿で王妃にもお会いしました」
シドの顔色が、さっと変わった。「会った」というのは、すなわち「彼女の心を知った」ということである。ディーンの黒い瞳は、無限の闇のひろがりをもってシドの心を見透かしている。彼は長い間それに耐えてきた。こんなときは、下手に隠そうとしないほうがいいのだ。




