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竜の剣  作者: 高倉麻耶
第一部 第四章
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第四章 緋鬼ル・グウェイ(4)

 『水面鏡の魔法』で彼らの様子を見ていたシルヴェウス王は、首を傾げた。


「グウェイには、シドを殺せと命令していたのではなかったか?」

「……そのはずですが」


 アゼルは無表情に水盤を見下ろしていた。


「ル・グウェイの判断は、わたしには判りかねます。ただ、双子のほうは難なく確保したようですので、明日の昼過ぎには戻ることでしょう。まぁ、双子さえ手に入れば、シド・ヴァーンなど」


 王は大きな欠伸をした。それから、山積みにされた果物のひとつを取って、皮も剥かずに齧りついた。それを咀嚼したあと、彼は噛み砕いた皮もそのまま飲み込んだ。


「面倒だ。ああ……何もかも面倒だ」


 シルヴェウス王は虚ろな眼でつぶやいた。


「王位も危機も政治もすべて、どうでもいい。ただ眠い……動くのも面倒くさい」


 彼の手から、齧りかけの果物が落ちた。アゼルは側近を呼んで、玉座に腰掛けたまま鼾をかきはじめたシルヴェウス王を、寝室へ運ばせた。


 するとそのとき、兵士と魔道士の一団が玉座の前へ駆けつけた。


 アゼルが振り向くと同時に、五人の魔道士たち全員がすばやく呪文を詠み始めた。捕縛用の『不動呪文』である。全身を魔法で縛られたアゼルは、まったく身動きできなくなった。


「撃てッ!」


 最後尾でルース・シェルメル公爵が叫んだ。二十人余の兵士たちが、一斉に矢を放った。その尖端は、赤色の強い魔術光を放っている。アゼルの体に、次々と大量の矢が刺さった。しかし肝心の心臓部の上は、すべて弾かれている。


 不動呪文をかけられているにもらず、アゼルはぐぐっと顔を動かした。そして、右端の魔道士をものすごい形相で睨みつけた。その途端、睨まれた魔道士は血を吐いて倒れた。

 

「次!」


 シェルメル侯はすぐに叫んだ。矢が当たらないことは予想済みだったのだ。

 弓兵がさっと移動し、長槍を持った兵士たちが現れた。その槍の穂先も、やはり赤く光り輝いている。


 アゼルは、後方で号令をかけているシェルメル侯を睨んだ。しかし、シェルメルは平然と立っていた。よく見ると、彼は黒い布で両目を覆っていた。その瞬間、アゼルの口から獣のような声が漏れた。


「がァッ!」


 五本の槍が、その心臓部を貫いたのである。しかし、槍で突き刺されたにもかかわらずアゼルの体からは一滴の血も出なかった。


 『種』が破壊された瞬間、彼の全身はボッと音をたて――煙のように散った。直後、彼が身につけていたな衣服と装飾品が、床に崩れ落ちた。

「やった!」

 邪法が解けたことを知り、不動呪文をかけていた魔道士のひとりが叫んだ。その声を耳にして、シェルメルは黒い目隠しをとった。


 歓声の中、シェルメル侯はアゼルの衣服を、杖の先で慎重に探った。そこには、水分の抜けきった白骨と、黒曜石のような黒い破片が落ちていた。


「これが、『種』か……」


 兵士の一人がそれを拾おうとした。シェルメルは鋭く制止した。


「触るな! 正体不明の邪法によるものだ。何が起こるかわからぬ」


 よく見ると、破片はコトン、コトンと音をたてて動いていた。それはいくつかの黒い塊に集合し、再び形になろうとしている。


「シェルメル殿」


 聞き慣れた老人の声に、彼は振り向いた。メリル枢機卿が、めったに見せない白の法衣姿で立っていた。彼が白の法衣を着るのは、最高位の魔法を使用するときだけである。


「わたくしに、おまかせを」


 メリルは彼の前に進み出て、手に持った大きな円鏡を黒い破片に向けた。


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